アメリカ発祥、日本でも増加中の「静かな退職」とは?

決められた仕事を淡々とこなす「静かな退職」

「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉をご存じでしょうか? 

「やりがいやキャリアアップは求めずに、決められた仕事を淡々とこなすこと」を指します。アメリカから言われ始めた概念ですので、アメリカ在住の読者はよくご存じかもしれません。日本でも近年、ワークライフバランス(仕事とプライベートのバランスを取り両方を充実させる働き方や生き方)を重視する動きが社会的に加速化したことによって、より”ライフ”に重きを置く人が「静かな退職」をしているケースが増え、注目されています。

そこで、新卒の就職を支援する企業の最大手である株式会社マイナビ(東京都千代田区)は、20~59歳の正社員を対象に「静かな退職をしているかどうか」を調査。あわせて、企業の中途採用担当者に「静かな退職をどう思うか」を調査しました。

結果、正社員の4割以上は「静かな退職」をしているようです。そして、中途採用担当者も約4割が「静かな退職」に賛成のようです。詳しく見てみましょう。

【「マイナビ 正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」調査概要】
<個人向け調査>
調査期間:2024年11月15日(金)~11月18日(月)
調査方法:インターネット調査
調査対象:20~59歳の正社員の男女
有効回答数:3000件

<企業向け調査>
調査期間:2025年3月3日(月)~6日(木)
調査方法:インターネット調査
調査対象:中途採用業務担当者
有効回答数:815件
※調査結果は、端数四捨五入の関係で合計が100%にならない場合があります。

「静かな退職」をしていると回答、20代が最多

20~50代の正社員に「静かな退職」をしているか聞いたところ、「している」と回答した割合は44.5%と4割を超えました。

年代別にみると、最も多かったのは20代で46.7%、次いで50代が45.6%、40代が44.3%でした。「静かな退職」をしている人はどの年代でも4割を超えていて、幅広い年代に存在することがわかりました。

希望を胸に入社して間もない20代が一番多く「静かな退職」をしている、というのは少々残念な気もします。

7割以上が「今後も静かな退職を続けたい」

「静かな退職」をしている人に、「静かな退職で得られたものがあるか」を聞くと、57.4%が「ある」と回答。具体的には、「休日や労働時間、自分の時間への満足感(23.0%)」が最多で、「仕事量に対する給与額への満足感(13.3%)」で続きました。

次に、「静かな退職」をしている人に対して、「静かな退職」を今後も続けたいか聞いたところ、「働いている間はずっと静かな退職を続けたい(29.7%)」が最多となり、「できるだけ静かな退職を続けたい(22.7%)」、「どちらかといえば静かな退職を続けたい(18.0%)」と続きました。つまり、「静かな退職を続けたい」と考えている人の合計は70.4%で、多数派となりました。

年代別にみると、「静かな退職を続けたい」割合は40代が73.5%で最多、「静かな退職を続けたくない」は20代が最も高く35.4%でした。全年代で「静かな退職を続けたい」と考える人の割合は高いですが、年代別では差があることもわかりました。

「静かな退職をしている」の回答者が一番多い20代でしたが、やりがいやキャリアアップを求めて「静かな退職」な状態を脱したい気持ちも他世代よりは多いようで、その点は少々ほっとします。

静かな退職を選んだきっかけを4タイプに分類

調査を行った株式会社マイナビの研究機関「マイナビキャリアリサーチラボ」は、「静かな退職」をするようになったきっかけを自由回答で聞き、回答をA~Dタイプの4つに分類しています。

【A…「不一致タイプ」】
●きっかけ…仕事・環境の不適合による意欲低下
●実例コメント…
「今の職場にはやりがいがある仕事がない」(50代)
「上司と意見があわず、話しても無駄なので静かに黙々とこなしている」(40代)
「女性が産休育休から復帰後も長く働けるような職場環境ではなく、キャリアアップは求めていないため」(20代)

【B…評価不満タイプ】
●きっかけ…処遇・評価に対する不平不満がある
●実例コメント…
「出世する職種ではないし結果を出しても給料は変わらないため」(40代)
「キャリアアップが望めない環境だから。昇給もないし、評価されることもないから」(50代)
「自分で仕事を行い、面談時にアピールしても評価をされないから」(20代)

【C…損得重視タイプ】
●きっかけ…損得やコストパフォーマンスを考えて静かな退職を実施
●実例コメント…
「キャリアアップをすると、仕事量が増えてプライベートの時間が確保できなくなるから」(20代)
「お金のために働いているのでそれに見合った仕事量はしている」(30代)
「コスパがいいので」(30代)

【D…無関心タイプ】
●きっかけ…価値観として変化・上昇を求めていない
●実例コメント…
「キャリアアップすることに興味がないから」(20代)
「仕事にやりがいを求めていないし、キャリアアップをしたいと思わないから」(30代)

C・Dのように、もともとの価値観やコスパ重視の考え方から「静かな退職」を選択しているタイプもあれば、A・Bのように、仕事環境や働く中で生まれた不満が要因となり「静かな退職」を選択しているタイプも存在するようです。

企業の中途採用担当者の約4割は「静かな退職」に賛成

企業サイドにしてみれば、やりがいをもって企業に貢献してくれる従業員が理想で、「静かな退職」をしている従業員は好ましくないのではないでしょうか? しかし、調査結果によると、「静かな退職」受容派も決して少なくはないようです。

企業の中途採用担当者に「静かな退職」について賛成か反対かを聞いたところ、「賛成」(賛成14.1%+どちらかと言えば賛成24.8%)が38.9%で、「反対」(反対14.6%+どちらかといえば反対17.5%)の32.1%を6.8pt上回りました。反対より賛成が多かった業種は「IT・通信・インターネット」や「金融・保険、コンサルティング」。一方で、賛成より反対が多かった業種は「不動産・建設・設備・住宅関連」や「流通・小売」でした。

賛成意見では、「人それぞれだと思うので、キャリアアップを求めない働き方も考慮すべき」、「そういった人材がいないとなりたたない業務もある」といった意見がみられました。

反対意見では「他の従業員に伝播する」、「会社としては有益ではない」など、静かな退職をしている人の周囲への影響や会社への有益性を懸念する意見があがりました。個人の価値観を尊重し、「静かな退職」という働き方に理解を示す声はありつつも、業種や業務内容によっては企業側の賛否が分かれることもわかりました。

不本意な静かな退職者を生み出さない工夫が必要

マイナビキャリアリサーチラボ研究員の朝比奈あかり(あさひな・あかり)氏は調査結果について、次のようにコメントしています。

「今回の調査から、正社員の4割以上が『静かな退職』をしており、静かな退職は一般的になりつつあることが分かりました。そのうちの約7割は『今後も静かな退職を続けたい』と回答しているため、今後も働き方を変えない人は一定数いることがうかがえます。静かな退職は“決められた仕事はこなしている”ことが特徴であり、企業もそういった働き方に少なからず理解を示してはいるものの、業種や業務内容によっては反対意見もみられました。

また、静かな退職のきっかけを分類した結果から、仕事や環境の不一致や評価・処遇への不満、仕事環境などが要因で、不本意ながら静かな退職を選択している人がいることも見えてきました。不本意な静かな退職者は不満を抱えながら働いている可能性が高いため、企業は少しでも不本意な静かな退職者を生み出さないような工夫や制度改革が求められるのではないでしょうか。価値観が多様化する昨今、企業は個人の多様な価値観を受け入れ、柔軟な働き方を提供し、向き合っていくことが重要だと考えます」

(取材・文/大友康子)