民間企業に就職した博士「7割が満足」

日本政府「民間企業が博士を採用するためのガイドブック」制作
日本政府は今年の3月、大学院の博士課程を修了した人(以下、「博士人材」)の民間企業への就職支援を強化するため、民間企業が活用できるガイドブックをまとめました。ガイドブックのタイトルは、「博士人材の民間企業における活躍促進に向けた手引き・ガイドブック」。制作の理由は、2020年度に経済産業省が調査した結果によると、日本では、博士課程を修了した人を採用したことのない民間企業の割合が76.6%に上ることが分かったからです。
そこで、ITエンジニアを専門とした新卒採用向け就職支援エージェントである「レバテックルーキー」(レバテック株式会社運営)は、民間企業で働く、または働いた経験のある博士人材212名と、博士人材の採用を行う企業の採用担当者や責任者192名を対象に採用に関する調査を実施。その調査結果を公表しました。
博士の就職に関する実態や課題を見ていきましょう。
【「博士就活・採用に関する実態」調査概要】
調査年月:2025年1月22〜27日
<人材側調査>
調査対象:博士課程修了者のうち、民間企業で働く・働いた経験のある博士人材
有効回答数:212
<企業側調査>
調査対象:博士号取得者を採用する企業の採用担当者・責任者
有効回答数:192
博士人材の7割「民間企業で働いてよかった」
博士課程に進学した人は卒業後は大学の教員になるなど、博士課程で学んだ研究を続けていくことを希望するケースが多いと聞きます。では、博士人材は民間企業で働くことをどのように思っているのでしょうか? その質問に対して、約7割が「実際に民間企業で働いて良かった」と回答しました。
民間企業で働いてよかった理由1位「経済的安定」
良かったと思う理由の1位は「経済的安定を得ることができたから」37.6%。経済的な基盤を確保できたことがキャリアにおける重要な要素となっていることが分かります。また「社会に貢献できている実感を持つことができたから」33.1%、「大学に残るよりもキャリアパスの選択肢が広かったから」29.9%といった点も上位に挙げられました。
専門知識を活かせる環境や評価制度の改善が課題
一方で、「どちらかというと良くなかった」「良くなかった」と回答した人の理由としては、「専門知識を過小評価されていると感じたから」が49.1%と最多。「博士課程で学んできたことを活かせないから」も32.7%と上位に挙げられました。評価制度の改善や、専門知識を活かせる環境の整備が、博士人材を採用する側の職場環境の課題となっていることが分かります。
企業側「やっぱり博士は優秀」
博士人材が入社した実績がある民間企業に対して、「博士人材を採用して良かったこと」を聞くと、「博士課程で培ってきた専門知識やスキルと自社の研究開発分野の親和性が高く、事業に大きく貢献してくれた」55.8%が最多。次いで「博士課程修了者が学んできた専門分野以外でも高い能力を発揮してくれた」41.9%、「他の社員の学習意欲を刺激する良い影響を与えた」38%と続きました。
専門分野以外で「際立っていた」と感じる能力については「論理的思考力」48.8%が1位。「情報を収集し分析する能力47.3%、「計画を立案し、実行・管理する能力」42.6%が続く結果となりました。
博士人材の入社実績がある企業は、博士課程で学んだ知識を活かした業務貢献だけでなく、仕事を行う上で必要なう能力についても、その高さを実感していることが分かります。
博士人材約3人に1人「研究分野と業務の関連性ない
博士人材は専門分野でも、分野外でも、その能力を高く評価されているようですが、実際の業務は研究してきた分野を生かせているのでしょうか? その点を質問すると、約3人に1人が「博士課程での研究分野と現在の業務に関連性はない(37.7%)」と回答しました。また「研究分野と業務内容が類似している(18.4%)」と回答した人は全体の約2割に留まっていて、博士課程で培った専門性を活かしきれていないという現状が明らかになりました。
また、「研究分野と業務の関連性はない」と回答した方の約半数は、民間企業で働いて「非常に良かった(13.8%)」「どちらかというと良かった(46.2%)」と回答しています。研究分野との関連性がなくても、民間企業で働くことで得られる「やりがい」や「安定性」といった他の要素が、満足度に繋がっているようです。
博士人材の活躍は日本の発展に大きく貢献
レバテック株式会社執行役社長・泉澤匡寛(いずみさわ・まさひろ)氏は調査結果を受け、次のようにコメントを寄せいています。
「博士人材の活躍の場を広げるには、企業と博士学生双方が研究内容に縛られないマッチングを模索することが重要です。特に、研究分野に限定されない能力を見極める手段として、インターンシップやジョブ型採用は有効な手段となるのではないでしょうか。また企業側の受け入れ体制の整備とともに、学生の不安を解消するための支援も必要です。
2025年3月に経済産業省と文部科学省によって作成される『博士人材の民間企業における活躍促進に向けた手引き・ガイドブック』では、博士人材の待遇や採用活動の見直しに加え、企業と博士課程学生の交流機会の増加などが提案される予定です(※)。高度な専門知識と研究能力を持つ博士人材が活躍できる社会を実現することは、日本の技術発展、そしてIT先進国化に大きく貢献すると考えています。レバテックは、博士課程の学生や博士人材が最適な活躍の場を見つけられるように、良き相談相手として伴走し、民間企業で働くうえでの不安や課題の解消に尽力してまいります」
※コメントは3月18日の発信。『博士人材の民間企業における活躍促進に向けた手引き・ガイドブック』は3月26日に発表されました。
(取材・文/大友康子)