10代LGBTQが抱える生きづらさ、学校や保護者の理解が必要

LGBTQの子ども・若者、約5千名の最新調査を公開
プライド月間にあわせて、認定NPO法人ReBitが、LGBTQユース(12〜34歳)約5,000人を対象にした大規模調査「LGBTQ子ども・若者調査2025」の結果を公開しました。その一部を抜粋して紹介します。2022年に続く2回目の調査となる今回は、LGBT理解増進法の制定や学校教科書への多様な性の掲載など社会的前進が見られる一方で、LGBTQユースが依然として深刻な困難や生きづらさを抱えている実態が浮き彫りとなりました。
10代LGBTQに多い自傷行為など。相談できる場の有無が影響
10代LGBTQのうち、過去1年で53.9%が自殺念慮、19.6%が自殺未遂、42.2%が自傷行為を経験。日本財団の『日本財団第 4 回自殺意識調査(2021)』と比較すると、10代LGBTQの自殺念慮は3.3倍、自殺未遂経験は3.6倍、自傷は3.7倍といずれも高いことがわかりました。
また、前回の「LGBTQ子ども・若者調査2022」と比較しても、自殺念慮+5.8ポイント、自殺未遂+5.6ポイント、自傷+4.1ポイントといずれも高くなっています。
さらに、「普段からセクシュアリティについて安心して話せる相手や場所がない」と回答した、10代は40.8%、20代は25.2%、30代は27.1%にのぼります。安心できる相談先の有無で比較すると、「ある」群の方が、自殺念慮、自殺未遂、自傷行為ともに低い結果に。安心して相談できる人や場所の存在が、LGBTQユースの自殺予防に重要な役割を果たしていることが示唆されます。
また、LGBTQユースの11.1%が過去1年にひきこもりを経験。内閣府「こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)」で示された15〜39歳の「広義のひきこもり」該当者2.05%と比べても極めて高い割合です。
<当事者の声>
・性別規範を押しつけてくる教員が多く、苦しさのあまり中高生の頃は自殺未遂やリストカットを繰り返し、摂食障害や適応障害、不登校にもなりました。(29歳・香川・出生時に割り当てられた性別は女性、性自認は決めていない、パンセクシュアル)
学校では中高生の9割が困難を経験、うち6割超は教職員由来
LGBTQの中高生の89.5%が過去1年に学校で困難やハラスメントを経験し、うち63.8%は教職員に由来するものでした。具体的には、「生徒からLGBTQでないと決めつける言動」(63.7%)、「先生からの不要な男女わけ」(46.2%)、「生徒からLGBTQをネタ・笑いものにされた」(43.9%)などが多く挙がっています。
さらに、中学生の40.1%、高校生の24.0%が、過去1年にいじめや暴力を経験しており、不登校になる中学生や高校生も多いことがわかりました。
そういった状況でも先生を頼れないという状況も明らかに。LGBTQ中高生の94.6%が担任の先生にセクシュアリティを安心して相談できないと回答、セクシュアリティを一度でも教職員に伝えたことがあるLGBTQ学生は31.9%に留まりました。
2020年以降、小学校の保健体育の教科書には、LGBTQや多様な性に関して掲載が進められてきましたが、そうした教科書で学んだはずの中学生に限定しても、小学校の保健体育の授業で、性的指向や性自認の多様性について教わったと答えた中学生は31.0%にとどまっています。
<当事者の声>
・中学生のときに「アイツはゲイだ」と噂を広められ、学年中からいじめられ、「生まれてこなければよかった」と思っていました。こんないじめが二度と起きないよう、小学校から多様性について教育してほしいです。(21歳・兵庫・バイセクシュアル男性)
・先生に相談したら、アウティングされてしまったことが一番辛かった。他の先生にも配慮を求めるために共有したのかもしれないけれど、私に確認してほしかった。(19歳・東京・FtX、性的指向は決めていない)
3割のLGBTQユースが安心できる住まいがなく、家以外で寝泊まりを経験
LGBTQユースの28.7%が安心できる住まいがないと感じ、15.4%が家以外で寝泊まりしたと回答。背景には、87.6%のLGBTQユースが保護者との関係で困難を感じていることが関係していると考えられます。「保護者からLGBTQでないことを決めつけた言動があった」(56.2%)、「セクシュアリティがバレてしまうことを不安に感じた」(52.7%)などの回答が多く、保護者の理解の不十分さが関係性の困難や孤立につながっていることがうかがえます。
<当事者の声>
・親にトランスジェンダーであることをカミングアウトしたら、無理やり女性の格好をさせられ、生活のすべてをコントロールされるようになりました。身体的にも精神的にも虐待を受け、それが自傷や自殺念慮につながりました。(26歳・宮城・トランスジェンダー男性、ゲイ)
・親がLGBTQの悪口を言うことが多くて、それが自分にも当てはまるんだと思うと辛くて、とにかく自分のアイデンティティを隠すことを心がけている。大人になって家を出るまで我慢すれば、それ以降は自由だと自分に言い聞かせて、ただただ耐えている。(16歳・広島・FtX、性的指向は男性)
「LGBTQ子ども・若者調査2025」では、「トランスジェンダーの74%が就活転職時に困難を経験していること」や「LGBTQユースの87%が過去1年に差別的言動を見聞きしており、特にSNSの影響が大きいこと」などを報告しています。
LGBTQユースの健康と命を守るために大人ができること
6月12日に開催された「オンライン調査報告会」では、ReBit代表理事の藥師実芳(やくし・みか)さんが、課題や今後の展望を述べました。トランスジェンダー男性であることを公言している藥師さんは、小学生の頃から性別に違和感があり、つらい思いをしてきたことから、大学生の20歳のときに、自身と同じような子どもや若者を支援したいとReBitを立ち上げ、LGBTQの理解を深める教材づくりやLGBTQの若者のキャリア支援などを行っています。
「前回からの3年間で社会は大きく変わりました。例えば、2023年6月に『LGBT理解増進法』が制定され、学校でのLGBTQへの取り組みが初めて努力義務とされたこと、2024年度からは小学校の保健体育の教科書に性の多様性が掲載されるようになったことなど、学びの機会が増えたことは良いことだと思います。一方、子どもたちに授業の様子を聞くと、情報が不十分だったり、先生から差別的な言動があった、と話してくれました。また、保護者に理解してもらえない、家では自身の悩みを隠している、といった子も少なくありません。法律ができても、子どもたちの半径5mは変わっていないことが悔しいです」
半径5mを変えていくには、「制度づくりと並行して、子どもたちの味方になる大人を増やしていくことが必要」だと訴えます。
「私が大人になれたのは、『幸運』だったから。相談できる先生や友達に恵まれました。でも、多くのLGBTQの子どもや若者はそうではありません。私自身、仲間を亡くして悲しい思いをしたこともあります。だから、『幸運』でなくても大人になれる社会にしたいのです。LGBTQ子どもや若者の命と暮らしを守るためには、身近な大人が理解者(アライ)となること、そして行政・企業・学校・市民社会が連携し、社会全体で課題に取り組むことが不可欠です」と話します。
■大規模調査「LGBTQ子ども・若者調査2025」の詳細はこちら
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000073.000047512.html
■認定NPO法人ReBit
(取材・文/中山恵子)