渡航前と帰国後では、同じ日本でも全く違って見えると聞きます。海外駐在を経て日本に帰ってきた保護者の皆さんに本音を明かしてもらいました。今回は、お子さんの様子や親子関係が変化ついてのアンケート結果を見ていきます。
【アンケート概要】
有効回答数 | 713人(女性=592人、男性=103人、性別回答なし=18人) |
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対象者 | 海外赴任の経験か海外赴任同行の経験があり、帰国子女の保護者にあたる方 |
調査期間・方法 | 2020年10~12月、WEBアンケート |
【選択肢とした項目】
◆登下校 ◆学習内容・進路 ◆友だち関係
お子さんはどう変化した?
帰国後、「我が子の変化」はどんな場面で顕著だったのか。保護者の目で見た1~3位をご紹介します。
1位 登下校 379人(53.2%)
親不在の登下校を不安がったり楽しんだり…
- 海外では車通学だったため、中学生で初めての電車通学ができるか心配だった。帰国後、一人で電車に乗り、乗り換えまでできていることに感動。A・Tさん(チェコ&中国4~5年、女性)
- 小学校低学年で一人での登下校を不安がっていたので、帰国してからしばらくは途中まで送り迎えをしていた。Y・Yさん(イギリスほか2カ国、女性)
- 下校時、友だちと一緒に寄り道をするようになった。M・Kさん(アメリカ10年以上、女性)
- 海外では子どもだけで移動することがなかったので、移動時間や移動手段はすべて親まかせだった。帰国後、登下校で電車を利用するようになって、初めて子どもが自分で調べるようになった。M・Tさん(台北5~6年、女性)
2位 学習内容・進度 343人(48.2%)
授業の速度や板書の書き写し、宿題に困惑
- 勉強の進み方が早くなって大変そう。Y・Tさん(アメリカ5~6年、女性)
- パソコンを使わない学習に困惑。まだ板書をノートに書き写すの? M・Tさん(南ア&インド9~10年、女性)
- 宿題が増え、就寝が深夜になってしまった。もっと青春を謳歌してほしい。S・Kさん(イギリス5~6年、女性)
- 息子は知識を深めるのが好きなので、アメリカの体験型よりも日本の知識インプット型が意外にも合っている様子。Y・Tさん(アメリカ5~6年、女性)
- 苦労して必死に勉強し、現地校でトップクラスの成績をキープしていた子でも、帰国後は、英語以外の成績は底辺でショックだった。N・Yさん(アメリカ3~4年、女性)
3位 友達関係 296人(41.6%)
「自由」と「窮屈」、両方あり
- 親を介さず自由に友だちと会えるようになったことが、とても嬉しそう。Y・Mさん(タイ6~7年、女性)
- 現地の日本人学校では転出入が多く、女子がクラスに3人だけという時期も。帰国後に編入したのは女子校で、当然ながら女子の人数が多く、気の合う子が見つけやすかったそう。Y・Yさん(ベルギー5~6年、女性)
- 渡米前の公立小に戻ったが、以前のような友だち関係を築けず…。英語で話せる友だちのいる私立中学に行きたいと言ってきた。A・Iさん(アメリカ1~2年、女性)
- 海外では自分を優先して他人の気持ちを考えない傾向にあったが、帰国後の苦労を経て他人の気持ちを汲み取れるようになった。Y・Tさん(中国2~3年、女性)
~専門家より~ 保護者は我が子が自信を高めるアシストを
登下校、学習、友だち関係。様々な場面で我が子に迷いが生じたとき、救いになるのは「物事を自分で決めるクセ」だと中里氏は話す。
「このクセがつくと自己肯定感が高まって、自分のする選択に自信を持てるようになります。親御さんはぜひ、クセづけのアシストを。『ここはいいね。でも、そっちはこうした方がいいと思うけどどうかな?』というように、まずは我が子の考えを認めて、その上で正しい方向へ導くようなアドバイスをしますが、最終決定は子どもに委ねる。これを繰り返しましょう」(中里氏)
親子関係はどう変化した?
次に、親子関係の変化について見ていきましょう。帰国後に親子の時間が減ってイライラが和らいだ方も、寂しく思う方も。変化に対して思うことは千差万別でした。
- 日本では物理的に離れる時間ができて、お互いへのイライラが減り、関係はよくなった。C・Mさん(アメリカ4~5年、女性)
- 無事高校に合格&進学してプレッシャーが減り、穏やかな関係に戻った。海外滞在中は、自分の肩に子どもの日本での将来がかかっているようで怖かった。N・Kさん(アメリカ5~6年、女性)
- 子どもの帰宅が遅く、その分、親子関係は薄く…。皆揃っての夕食も週1程度に激減。S・Jさん(シンガポール4~5年、女性)
- 子どもの相談に乗ることが増え、会話も増えた。Tさん(イギリス10年以上、女性)
- ニュースを見てよく議論するようになった。Yさん(アメリカ1~2年、女性)
- 高校生なので帰国後は自分の好きなように動き回ってもいいはずなのに、意外と親の私たちに依存してくる。K・Yさん(アメリカ&ドイツ9~10年、女性)
- 海外でガッチリと積み上げた親子関係が今も活きており、何があっても助け合う関係となっていると感じる。H・Kさん(カナダ2~3年、女性)
- どこにいても勉強させなければならないことに変わりはない。Aさん(アメリカ3~4年、女性)
- 海外滞在中のほうが時間に余裕があったので、親子でお菓子を作ったりする機会は持てていた。でも、だからといって関係の質は変わっていないと思う。M・Iさん(中国&シンガポール5~6年、女性)
自我の確立が進んでも親子の信頼関係は大事
日本よりも「個」に重きを置く地で暮らした子どもは、自我の確立が早く進むという。さらに帰国後は親子が離れる時間が増え、その確立がより進むケースが多いとか。
「自我の確立過程に身を置く子どもは、達観しすぎとも思える発言をしたり、助言に耳を傾けずに反論したりと、保護者に寂しい思いをさせることが増えるかもしれません。ですが、それは成長の証。まずは自分の意見を言えたことを受け止めて、尊重しましょう。そして『何があっても私たち(保護者)はあなたのサポーターだよ』と伝えます。絶対的な信頼関係を持つ子どもは心も体も強くなるからです」(中里氏)
【付録】我が子へのメッセージ
- どんな環境にも順応して自分らしく生きていることを褒めたい。Rさん(中国5~6年、女性)
- 流した涙は数知れず。親の都合で海外滞在となり、苦労ばかりさせてしまい、そのなかでもひたすら頑張ってくれた我が娘。本当にありがとう。S・Sさん(アメリカ6~7年、女性)
- 全ての勉強において口を出すところがない。脱帽です。T・Nさん(アメリカ7~8年、男性)
- 親の事情で友だちと別れることになってごめんなさい。N・Iさん(香港8~9年、女性)
- 地球のどこに住もうと、その場所や人々のいいところを見つけられれば幸せに暮らせます。Tさん(イギリス10年以上、女性)
- 好きな道を進め。T・Hさん(ドイツ1~2年、男性)
- 帰国後は滞在国との違いにずいぶん戸惑い怒っていたけれど、海外で育んだ力を大事にしつつ、少しずつ日本を受け入れていき、今や社会人。自分の道を歩む姿が頼もしいです。A・Mさん(アメリカ10年以上、女性)
- 日本で生きるのを選ぶのはいいが、日本でしか生きていけない人にはならないで。Y・Kさん(アメリカ&タイ10年以上、女性)
【付録】保護者として望むお子さんの最終の進学先は?
アンケートの回答者に日本の大学を選んだ理由を尋ねると「我が子には有事に助けられる場所にいてほしい」という声が多く、地震やコロナ禍の影響が垣間見える結果に。「その他」は、「保護者としての希望をあえて作らない」という声が大半。
お話を伺った方
臨床心理士 中里文子氏
メンタルヘルス・ケアの専門家。教育委員会での教育相談や児童相談所での子育て相談のほか、一般企業の駐在員とその家族のためのカウンセリングも行っている。
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