渡航前と帰国後では、同じ日本でも全く違って見えると聞きます。では帰国後、何に喜び、怒り、悲しみ、苦労しているのか。海外駐在を経て日本に帰ってきた保護者の皆さんに本音を明かしてもらいました。今回は、「頭の中を占める事柄」について、渡航前と帰国後の変化を見ていきます。
【アンケート概要】
有効回答数 | 713人(女性=592人、男性=103人、性別回答なし=18人) |
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対象者 | 海外赴任の経験か海外赴任同行の経験があり、帰国子女の保護者にあたる方 |
調査期間・方法 | 2020年10~12月、WEBアンケート |
海外滞在中と帰国後での頭の中を占める事柄の変化
一番多かったケースはこれ!
「常に気を張っていた」「文化や言葉の壁もあり、生活するだけで精一杯だった」というように海外で頭の中を占拠していた「日常生活」が帰国後は小さな存在に。帰国後に存在が大きくなった「子育て」は学校生活の気がかりが主。「仕事・ボランティア」は同行者が仕事を再開したケースが多いため。
親戚関係と金銭面で困惑したケース
親戚付き合いは10年以上なかったのに、一気に押し寄せてきて困惑の日々。その他は、金銭面。海外滞在中はお金の心配をしたことが全くなかったが、帰国してからはやり繰りが大変になった。A・Aさん(アメリカ10年以上、女性)
人間関係がラクになったケース
海外での狭い日本人社会は思った以上に大変で、「出る杭は打たれる」状態を回避するために気を遣っていた。帰国後はそこから解放されて、仕事や趣味・遊びに力を注げるようになった。Sさん(オーストラリアほか2カ国10年以上、女性)
仕事と親の老後のことが突出したケース
海外では公私の両方に気持ちや時間を注いでいたが、帰国後は仕事が忙しくなり、バランスが変わった。その他は、親のこと。親の老後について、帰国後は現実的に考えたり動いたりするようになった。A・Fさん(UAE10年以上、男性)
受験のサポートを強めたケース
受験に振り回されることなくのびのび過ごしていた海外生活から一変。帰国後はすぐ受験社会の渦に入り、私は子どものサポートに尽力することに。塾に通わせると、お金もかなりかかるんだなぁ。Y・Mさん(アメリカ4~5年、女性)
頭の中を占める事柄は目標設定の大ヒント
713名の回答結果で一番多かった変化は右の横顔のイラストで示した通りだが、臨床心理士の中里文子氏によると、これは「心理学の観点で的を射ている」という。「右の変化は人間の本能的な欲求に即しています。アメリカのマズローという心理学者は、欲求は『生理的欲求→安全欲求→社会的欲求→承認欲求→自己実現欲求』の順で高次へ進むと考えました。海外では下位3つを満たすことに必死ですが、母国の日本では下位2つが自然と満たされるため、上位3つを満たすことが中心になるのです」(中里氏)
中里氏は、帰国して落ち着いた頃に自身の頭の中を占める事柄が何かを考えることをすすめる。
「これを考えると、その後の目標を設定しやすくなったり、やるべきことが明確になったりします。上の4名の方々はすでにご自身なりの目標設定を済ませて、具体的な行動に移している段階(移さざるをえなかった状況)でしょう」(中里氏)
お話を伺った方
臨床心理士 中里文子氏
メンタルヘルス・ケアの専門家。教育委員会での教育相談や児童相談所での子育て相談のほか、一般企業の駐在員とその家族のためのカウンセリングも行っている。
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