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WEBアンケート|帰国子女の保護者713人の本音⑤ ~悲しさ、苦労を感じること~

渡航前と帰国後では、同じ日本でも全く違って見えると聞きます。では帰国後、何に喜び、怒り、悲しみ、苦労しているのか。海外駐在を経て日本に帰ってきた保護者の皆さんに本音を明かしてもらいました。

今回は、「帰国後に悲しさや苦労を感じること」についての回答をランキング形式で見ていきます。

【アンケート概要】

有効回答数 713人(女性=592人、男性=103人、性別回答なし=18人)
対象者 海外赴任の経験か海外赴任同行の経験があり、帰国子女の保護者にあたる方
調査期間・方法 2020年10~12月、WEBアンケート

【ランキングの選択肢とした項目】

◆食生活 ◆居住環境 ◆ファッション ◆収入や貯金 ◆子どもの学校生活 ◆子どもの習い事 ◆子育て環境 ◆親子関係 ◆夫婦関係 ◆自身の親との関係 ◆自身の友人との関係 ◆ママ友・ご近所づきあい ◆自身の仕事、働き方 ◆自身の仕事での人間関係 ◆余暇 ◆医療 ◆その他

悲しさ、苦労を感じることランキング

1位 子どもの学校生活 178人(25.0%)

のびのび過ごす我が子の姿が懐かしい

  • 海外で認められていた個性が帰国後に認められていない。M・Yさん(バーレーンほか4カ国10年以上、女性)
  • 帰国直後、子どもがいじめにあった。学校と相談するも効果的な対応がなかなか難しかった。R・Sさん(台北9~ 10年、男性)
  • 海外では多種のスポーツを季節ごとに経験できたし、授業で楽器を複数習えた。帰国後は部活で「何かひとつ」にしぼらなければならなかった。T・Iさん(香港ほか3地域10年以上、女性)
  • ドイツとイギリスの学校では、授業参観や発表会の多くが夜7時スタートで仕事終わりに参加できたが、今は違うので参加しにくい。S・Gさん(ドイツ&イギリスほか1カ国9~ 10年、男性)
  • 近頃の先生方は保護者を怖がり、子どもの間違いを指摘しなくなった気がする。K・Tさん(アメリカ3~4年、女性)

2位 居住環境 162人(22.8%)

家族含め、人との交流が減った気が…

  • セントラルヒーティングでなく、寒い。Y・Mさん(アメリカ10年以上、女性)
  • 自然を感じる生活でなくなった。S・Sさん(オランダ2~3年、女性)
  • お手伝いさんがいない暮らしは大変。H・Iさん(マレーシア6~7年、女性)
  • 電車では皆が疲れていて我先にと席をとり、譲らない。自分もそうなりつつある。K・Tさん(スイス1~2年、女性)
  • 海外経験が妬みの対象になるような地域に住んでいるので、海外生活のことを気軽に話せないのがストレス。Y・Gさん(韓国&イギリス5~6年、女性)
  • 母子だけで帰国し、家族が離れ離れに。Dさん(ベトナム6~7年、女性)
  • 都内を避けて住環境のいい郊外に住んだが、子どもが寮生活を余儀なくされた。家族の時間は激減。T・Iさん(ベルギーほか4カ国、女性)

3位 収入や貯金 112人(15.7%)

学費、光熱費、被服費、そして税金が高い!

  • 子ども二人が私立に進学。覚悟はしていたが、学費が高い。S・Tさん(アメリカ&シンガポール10年以上、女性)
  • 日本は光熱費が高い。M・Tさん(台北4~5年、女性)
  • 日本では、教育にしてもファッションにしても、湯水の如くお金が出ていってしまう。あちこちにある子ども向けのガチャガチャマシンなども強敵。C・Wさん(アメリカ4~5年、女性)
  • 離婚した。経済的に不安。K・Mさん(アメリカほか1カ国7~8年、女性)
  • 海外赴任手当がなくなり、趣味に使うお金の余裕がなくなってしまった。M・Iさん(アメリカ3~4年、女性)
  • 帰国後は給料が下がったのに、海外では会社持ちだった家賃が自腹になり、そこに高い住民税も加わって…。やりくりが非常に難しくなった。Y・Dさん(シンガポール8~9年、女性)

4位 子育て環境 100人(14.0%)

  • 子ども単独で動けて親の仕事時間も長く、家族関係が希薄に。M・Mさん(アメリカ5~6年、女性)
  • 納得がいくレベルの英会話教室が少ない。Kさん(オーストラリア10年以上、女性

5位 自身の仕事、働き方 95人(13.3%)

  • 海外で働いた経験が活かせる職場でない。T・Iさん(アメリカ4~5年、男性)
  • 海外在住期間がブランク扱い。年齢も重ねていたので再就職の際に苦労した。Y・O(中国10年以上、女性)

6位  自分の仕事、働き方 50人(7.0%)
7位  子どもの習い事 47人(6.6%)
7位  ママ友、ご近所づきあい 47人(6.6%)
9位  自身の仕事での人間関係 44人(6.2%)
10位 夫婦関係 23人(3.2%)

6~10位からの抜粋&その他

  • 休日が少なく旅行回数減
  • 運動系の習い事の指導が厳しすぎる
  • 子どもの英語力が低下
  • 義両親との同居、親の介護
  • 帰国後の日本国内での転勤
  • 単身赴任(夫がまだ海外)

など

~1位の子どもの学校生活について~「皆、同じ」は不自然だから少しずつ変化が進む

アンケートの回答では、日本の学校、特に公立校の教育における没個性化を嘆く声が目立った。教育学者の苫野一徳氏は、その背景について、「皆で同じことを、同じペースで、同じようなやり方で勉強する。これが日本の公教育の場で明治初期からほとんど変わらずに続いてきた基本的な学校システムです。システム誕生の理由は『統率のとれた軍隊や、工業社会における上質で均質な労働者を作ること』でした」と話す。

しかし子どもたちには個々に適した学びのペースややり方があるのだから「皆、同じ」は極めて不自然だと、苫野氏は続ける。

「これからの学びの核は『決められたことを決められた通りに』ではなく、『子ども自身が問いを立て、自分なりの方法で、自分なりの答えに辿り着く』という“探究”になるはずです」(苫野氏)

日本での最近の動きとしては、新しい学習指導要領に、探究についての記載が登場。また小2~6で1クラスの定員縮小(35名)が決定。2022年度には小学校高学年の理科、算数、英語が教科担任制に。

「探究を支える先生方が動きやすくなる変化は歓迎すべきもの。加えて、皆が『自分たちの学校は自分たちで作る』という心構えを持ち、それに向けた話し合いを重ねることが重要だと私は思います」(苫野氏)

「子どもの学校生活」についてお話を伺った方

苫野 一徳氏

教育学者、哲学者
苫野 一徳(とまの いっとく)氏

熊本大学教育学部准教授。熊本市教育委員。著書は『「学校」をつくり直す』(河出書房新社)、『教育の力』『愛』(共に講談社現代新書)、『はじめての哲学的思考』(ちくまプリマー新書)ほか。

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