渡航前と帰国後では、同じ日本でも全く違って見えると聞きます。では帰国後、何に喜び、怒り、悲しみ、苦労しているのか。海外駐在を経て日本に帰ってきた保護者の皆さんに本音を明かしてもらいました。
今回は、「帰国後に怒りを感じること」についての回答をランキング形式で見ていきます。
【アンケート概要】
有効回答数 | 713人(女性=592人、男性=103人、性別回答なし=18人) |
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対象者 | 海外赴任の経験か海外赴任同行の経験があり、帰国子女の保護者にあたる方 |
調査期間・方法 | 2020年10~12月、WEBアンケート |
【ランキングの選択肢とした項目】
◆食生活 ◆居住環境 ◆ファッション ◆収入や貯金 ◆子どもの学校生活 ◆子どもの習い事 ◆子育て環境 ◆親子関係 ◆夫婦関係 ◆自身の親との関係 ◆自身の友人との関係 ◆ママ友・ご近所づきあい ◆自身の仕事、働き方 ◆自身の仕事での人間関係 ◆余暇 ◆医療 ◆その他
「怒りを感じること」ランキング
1位 居住環境 156人(21.9%)
狭くてお金のかかる家はキツイ
- 収納が減り、海外で増えた荷物の3分の1は売却。M・Sさん(シンガポール3~4年、女性)
- 集合住宅なので、上の階の家族の生活音が気になる。我が家も階下の方に迷惑をかけないようにと、気をはる日々…。S・Hさん(アメリカ6~7年、女性)
- 海外のような広い庭やベランダがなく、隣家との距離が近いため、家族でゆっくりBBQもできない。H・Uさん(アメリカ4~5年、男性)
- 一生懸命働いて平均以上稼いでも、首都圏では小さい家にしか住めない。その上、高い家賃が家計を圧迫。N・Mさん(タイ4~5年、女性)
- 物件を借りたり買ったりする際、保証人に資産があっても高齢だと断られる。また、配偶者が外国人だと、様々な制約にしばられる。Y・Iさん(中国7~8年、女性)
2位 子どもの学校生活 126人(17.7%)
考え方が日本は海外に比べて遅れている?
- とにかく同じ年齢の子どもは、同レベル、同種類だと決めつけた公教育。子どもも千差万別だという認識は日本にはゼロだと思う。A・Kさん(イギリス4~5年、女性)
- 目的や意味のわからない校則がある。O・Kさん(ブラジル7~8年、女性)
- 学校との連絡手段が昔とほとんど変わらず、いまだ紙ベース。M・Mさん(アメリカ5~6年、女性)
- 日本のPTAは押し付け合い。A・Tさん(チェコ&中国4~5年、女性)
- 多様性に不寛容な子どもが多い。T・Kさん(タンザニア3~4年、男性)
- 慣例にこだわり、新しいことを受け入れて尊重する環境になっていない。J・Nさん(イギリス3~4年、女性)
- いじめ対応が後手後手。K・Oさん(UAE3~4年、女性)
3位 子育て環境 99人(13.9%)
海外よりも重く集中的にのしかかる「親の責任」
- 地域や社会で子育てを助け合う精神に欠け、「お互いさま」ということばは死語。自己解決型の子育てを強いられる。K・Yさん(アメリカ8~9年、女性)
- 大人が子どもに冷たい。バスで子どもの肩が少し当たっただけで舌打ちされた。アメリカではあり得ない。M・Mさん(アメリカ10年以上、女性)
- 中吊り広告やコンビニに並ぶ雑誌がえげつなくて、戦慄。A・Sさん(アメリカほか2カ国10年以上、女性)
- 変質者が多くて怖い。Sさん(オーストラリアほか2カ国10年以上、女性)
- 受験社会。勉強さえできればいいの?S・Oさん(インドネシア2~3年、女性)
- 子どもが英語を話せることをママ友に「何の苦労もしていないのにうらやましい」と表現された。F・Nさん(シンガポール&イギリス7~8年、女性)
4位 余暇 89人(12.5%)
- 休みを取りにくい。K・Tさん(スイス1~2年、女性)
- 休日は混雑。S・Iさん(ドイツ5~6年、男性)
- 子どもだけでお金を使って遊べる場所が多すぎ。S・Sさん(フランス10年以上、女性)
5位 収入や貯金 60人(8.4%)
- たくさん税金を払っても保育園の料金は最大、児童手当は減額。働く意欲が削がれる。C・Iさん(シンガポール3~4年、女性)
- 塾や習い事が高額。H・Tさん(パラオ10年以上、男性)
6位 自分の仕事、働き方 50人(7.0%)
7位 子どもの習い事 47人(6.6%)
7位 ママ友、ご近所づきあい 47人(6.6%)
9位 自身の仕事での人間関係 44人(6.2%)
10位 夫婦関係 23人(3.2%)
6~10位からの抜粋&その他
- 満員電車と殺気立った雰囲気
- 残業教養、パワハラ、非効率
- ママ友が他人を気にしすぎる
- 過剰包装、環境意識が低い
- 多すぎる飲みニケーション
- テレビがバラエティだらけ
など
~1位の「居住環境」について~ 日本の住宅が高い理由は住宅の機能が高いから
土地や住宅価格の高さ、立地の悪化、ご近所付き合いの変化などによって、「暮らしのトータルな質が低下した」と感じられること――。
住生活ジャーナリストの田中直輝氏は、これを『怒』の1位に居住環境が選ばれた理由だと分析。アンケートの回答で特に多かったのは「日本の住宅は高すぎる」という怒りの声だった。これを受けて田中は、「まずは日本の住宅が高いわけを知ることが、納得して暮らすための第一歩になるはず」と話す。「日本、特に大都市圏では土地が高い上、『限られた空間に高機能で快適な家を建てる工夫』『耐震強度を上げる工法や免震・制震のシステム』などが必要で、その全てにコストがかかるからです。同時にそれらを実現するために人件費も膨らみます。さらに日本では、海外では主流のストック(中古・既存)住宅の流通量が多くありません」(田中氏)
ただ近年は、コロナ禍のテレワーク推進による地方移住者や、大都市圏にあった企業の地方への本社機能の移転も目立ってきている。「これからもっと大都市圏から離れる人が増え、ストック住宅の流通量も増えれば、大都市圏の不動産価格は少しずつ和らいでいくかもしれません。地方の人口減少と大都市圏の住宅事情、両方が同時に改善されていくといいですよね」(田中氏)
「居住環境」についてお話を伺った方
住生活ジャーナリスト
田中 直輝(たなか なおき)氏
住宅業界専門紙の記者を経て、住生活ジャーナリストとして独立。戸建てや不動産業界など、住宅の世界を広く取材し、『東洋経済オンライン』や『オールアバウト』などに寄稿している。
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