渡航前と帰国後では、同じ日本でも全く違って見えると聞きます。では帰国後、何に喜び、怒り、悲しみ、苦労しているのか。海外駐在を経て日本に帰ってきた保護者の皆さんに本音を明かしてもらいました。
初回の今回は、ずばり「夫婦関係」についての回答を見ていきます。夫婦の関わり方は、海外滞在中と帰国後で大きく変わるもの。では、それに伴う夫婦関係の変化は?
【アンケート概要】
有効回答数 | 713人(女性=592人、男性=103人、性別回答なし=18人) |
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対象者 | 海外赴任の経験か海外赴任同行の経験があり、帰国子女の保護者にあたる方 |
調査期間・方法 | 2020年10~12月、WEBアンケート |
夫婦関係の変化は?
- 滞在中は互いに全く余裕がなく、ギスギスしていた。今は共にサバイブしてきた戦友として、あのギスギスを笑える余裕がある Yさん(アメリカ1~2年、女性)
- 夫は駐在中のほうが余裕があったようで、今より優しかった。H・Tさん(オランダほか2カ国10年以上、女性)
- 帰国後、夫を金銭面以外で頼らなくなった。E・Fさん(中国1~2年、女性)
- よくも悪くも、海外滞在中はたくさん頼られていたなぁ。T・Sさん(ブラジルほか2カ国10年以上、男性)
- 妻が仕事を始めた分、夫婦の時間は減った。M・Fさん(アメリカ10年以上、男性)
- 教育費が重なり、意見の違いでケンカが増えた。M・Sさん(中国・香港3~4年、女性)
- 滞在地では、学校や自治体のイベントで月1回は夜に子どもを預けられ、夫婦でディナーに行けた。日本ではそれができないので寂しい…。U・Uさん(アメリカ1~2年、女性)
- 特に変わらないが、帰国後に始めた私の仕事には理解を示して、よく協力してくれているので、ずいぶん助かっている。Y・Yさん(ベルギー5~6年、女性)
- どこにいても常にワンオペ育児のため、絆が深まることもなく特に変わらず。P・Pさん(インド3~4年、女性)
- 海外にいた頃と変わらず、いいコミュニケーションがとれていると思う。N・Kさん(アメリカ&ブラジル7~8年、女性)
- 関係性は変わらないが、妻への感謝をより感じるようになった。H・Tさん(パラオ10年以上、男性)
- 私は子どもたちと帰国。夫はアメリカで単身赴任。形態は変わったが、精神的なものは特に変わったと思わない。A・Mさん(アメリカ10年以上、女性)
- 帰国して人間関係や生活面についての私の愚痴がだいぶ減ったので、夫は精神的にラクになったはず。関係は良好なまま変化なし。K・Aさん(中国9~10年、女性)
配偶者へのメッセージ
- いつでもどこでも家族のために頑張ってくれてありがとう。Y・Tさん(中国10年以上、女性)
- 妻がついて来なければ、赴任は断っていました。今でも大変感謝している。K・Kさん(アメリカ3~4年、男性)
- 一度きりの人生なのだから、もっと自分の好きなように生きていいよ(仕事をやめてもいいよ)。M・Tさん(インドネシア1~2年、女性)
- 次の海外赴任があってもいいけど、国による、というのが正直なところ。M・Sさん(シンガポール3~4年、女性)
- 妻はずっと日本に帰りたがっていたので…お疲れ様でしたと伝えたい。T・Sさん(ドイツ8~9年、男性)
- ただただ、ありがとう。T・Oさん(アメリカ4~5年、男性)
- いつも感謝。あとは、私が働き始めたのでもう少しできることはやってもらえたらなという感じです。T・Yさん(アメリカ&中国・香港6~7年、女性)
- 日本も楽しもう。M・Mさん(アメリカ5~6年、女性)
- また海外に皆で行こう。T・Aさん(UAE6~7年、男性)
帰国後は新しい夫婦関係を作っていく
1日で家事・育児関連に費やす時間は夫が1時間23分、妻が7時間34分(※)。妻はそのうちの3時間45分を育児に費やしており、これはアメリカの妻側(2時間18分)など、他国と比較しても多い。
※…出典:総務省『社会生活基本調査』(2016年)。6歳未満の子どもを持つ「夫婦と子どもの世帯」における1日あたりの「家事」「介護・看護」「育児」「買い物」の合計時間(週全体平均)
「費やす時間の違いから考えても、日本では『夫婦の時間を共有しにくい』と言えます。そんな状況で大事なのは、ふたりで新たな『程よい夫婦関係』を意識して作ること。海外にいた頃のほうがいい関係だったのなら、当時していて今はしていないことを探してする。どちらかの生活が大変なら、家事・育児の負担バランスを見直す。そうした調整に力を入れていってください」(中里氏)
過去のご自身へメッセージを!
メッセージは回答者の皆さんがご自身に向けたものですが、海外滞在中の皆さんにも参考になりそうなものばかりでした。
楽しんで
- 住めば都。引っ越して失うものではなく、得るものに集中しよう。
S・Jさん(シンガポール4~5年、女性) - 日本と比べてばかりいず、今いる環境にしっかりはまって。いずれ恋しく思うことになるのだから。 M・Kさん(アメリカ9~10年、女性)
- 嫌なことがあっても「今日は運が悪い」と思ってクヨクヨしないでね。
E・Rさん(フランス10年以上、女性) - 鈍感力は大切。でも日本人としての感度も忘れずに。
A・Sさん(インドネシア2~3年、女性) - もっとリラックスしてOK。 Y・Nさん(ペルー&メキシコ6~7年、性別回答なし)
頑張って
- 家族の在り方を考えるいい機会となるので、可能な限り、父親の自分も育児に参加を。 Y・Fさん(イギリス&シンガポール10年以上、男性)
- その頑張りが帰国後の人生を変える。 N・Cさん(中国5~6年、女性)
- 現地人の友を作ろう。 I・Mさん(ベトナム5~6年、女性)
- お手伝いさんに頼り切って怠けていると、帰国後に大変な思いをしますよ。S・Nさん(中国5~6年、女性)
- 夏服を買いすぎないようにね。O・Kさん(アルゼンチン6~7年、性別回答なし)
- 子どもの漢字練習は嫌がられてもコツコツと。
R・Aさん(イギリス5~6年、女性)
安心して
- 苦しいのは、最初の1~2年。Y・Mさん(アメリカ10年以上、女性)
- 心配ない、自分が選んで進んできた道は全て正解だったよ。Nさん(アメリカ7~8年、女性)
- 帰国後は、いろいろなことが何とかなる。T・Oさん(アメリカ4~5年、男性)
- 正しい英語でなくても、伝えることが大事だよ。Y・Yさん(アメリカ4~5年、女性)
- 帰国を決めたのは、いい判断。毎日不安だったことが泡のように消えた。Y・Kさん(イタリア10年以上、女性)
- 子どもは日本でものびのび過ごせています。K・Tさん(マレーシア10年以上、女性)
信頼できる人に話したら前を向けるはず
すべての経験は人生の糧になるもの。メッセージを読むとそう感じさせられるが、それでももし“今”が苦しいなら我慢は無用だ。「落ち込んだら海外生活経験者の方や寄り添ってくれるカウンセラーに胸の内を明かして、心が前を向く機会を作ってください。かけがえのない毎日を楽しむために、それは誰にでも必要なことです」(中里氏)
お話を伺った方
臨床心理士 中里文子氏
メンタルヘルス・ケアの専門家。教育委員会での教育相談や児童相談所での子育て相談のほか、一般企業の駐在員とその家族のためのカウンセリングも行っている。
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