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「小さな生態系づくり」に挑戦した子どもたちの学びを報告(後編)

その場で一緒に見て話せる出張授業に手ごたえ

(前編)から続く。
ソニーの教育プログラム「CurioStep with Sony(キュリオステップ)」では、昨年から<生態系をつくって、育てて、考える『シネコポータル・ワークショップ』>を実施しているが、2年目となる今年は6つの小学校が参加し、5月下旬から半年間かけて、小さな生態系であるシネコポータルづくりにチャレンジし、11月にオンラインで最終報告会を行った。本ワークショップの意義や今年の様子を、CurioStepを担当するソニーグループ株式会社サステナビリティ推進部CSRグループの山本理恵子(やまもと・りえこ)氏に聞いた。(トップ画像は、福島県の小学校のシネコポータル。レモンなどの果樹も植えた)

新潟県の小学校でシネコポータルづくりをする児童たち

昨年にはなかった取り組みとして、今年は夏休み前後に各校で出張授業を行った。本ワークショップのナビゲーターである福田桂(ふくだ・けい)氏が、各校のシネコポータルを直に見ながら講義やアドバイスを行ったという。山本氏は、大きな収穫があったと話す。

「子どもたちの生のリアクションに非常にエネルギーをもらうとともに、私たちも子どもたちから多くの影響を受けました。学校ごとにシネコポータルの様子も全く違うため、一校ずつ訪問して会話ができたことは有意義な体験でした。水をあげなかった学校では、雨量が少なかったことと、猛暑の影響でいちじくの木が枯れてしまっていました。しかし、トマトはとても元気な様子で、子どもたちは水を好む植物と、水が少ない環境でも生きていける植物があることを学んでいました。その様子を見た福田さんから『トマトは実に水分をためているから、水が少なくても枯れないんだよ』など、なぜ成長に違いがあるのか説明があると、子どもたちも納得したようです。さらに、“水をあげない”という選択は、子どもたちの間で何度も話し合って出した結論だったと担任の先生から教えていただきました。その場で一緒にシネコポータルの様子を観察し、お話ししたからこその気付きだと思うので、出張授業をやってよかったと感じています」

兵庫県の小学校のシネコポータル。猛暑の中、ミニトマトが実った
シネコポータル・ワークショップのナビゲーターを務める福田桂氏

遠くの学校の児童たちと学ぶ楽しさも

出張授業の前後では、児童の学ぶ様子に変化が見られたのだろうか。

「大きく変わったと思います。シネコポータルという子どもたちにとって全く新しいものを、まずは見よう見まねでつくり、育てる中で、だんだんと興味がわいてきた頃合いで直接訪問し、<生物多様性と生態系>という少し難しいテーマについてお話しできたことはよかったと思いました。そこで初めて、自分たちが育てているものが<小さな生態系>なのだと、点と点がつながったのではないかと思います」

オンラインで学ぶことや、さらには遠くの小学校同士がつながって一緒に学んでいく、というスタイルも児童たちにとっては新しい体験だったと思われる。

「非常に新鮮だったようで、ワークショップのなかで楽しかったことを聞くと、『他校と繋がれたこと』という意見が多く出ました。最終報告会もオンラインでしたが、ある小学校がその地域の気温を音階にして木琴を演奏してくれました。『どのように表現してもいいんだ』という点が伝わったかなと思いました。また、リアル・オンラインにかかわらず、感想や質問の有無を尋ねると多くの手が挙がり、時間内には拾い切れないほどでした。また、各校からの発表に対してお互いにコメントや質問をする時間をとっているのですが、そこでも積極的に感想を発表する様子がみられ、子どもたちの前向きな姿勢にいつも感心していました」

群馬県の小学校のシネコポータルの秋の様子

学校ごとに個性のあるシネコポータルに感心

今年のワークショップの総括と今後の取り組みについて、山本氏はこう話す。

「各校ごとの個性があり非常に興味深かったです。給食ででたスイカの種を植えたら小さなスイカができた学校や、雑草がうっそうと茂って自分たちで植えた植物が見えなくなっている学校、田んぼで育てている稲をシネコポータルにも入れて育てている学校など、それぞれの工夫を感じました。“シネコポータルに正解はない、自由でいい”ということが子どもたちにも伝わったのだなと、個性豊かなシネコポータルを見て嬉しく思いました。シネコポータルを通じて、うまく育つも育たないも、自分の目で見て確かめ、試行錯誤している様子が伝わってきました。

次年度も、活動を継続できればと思います。長期間にわたり子どもたちに伴走できる本ワークショップでは、<学びのサイクル>を自分で回せるようサポートすることを目的にしています。好奇心をきっかけに、試して、考えて、また課題を見つけ、試してみるというサイクルの楽しさを、シネコポータルを通して感じていただけたら嬉しいです」

神奈川県の小学校では、フウセンカズラを種の大きさ別に分けて植えてみたという

1種類の植物を植え育てるのとはまた違い、小さな生態系(=シネコポータル)をつくることによって、さまざまな植物と生物が集い、影響し合って、変化していく、という自然の在り方を観察することができる。参加した子どもたちにとって、多くの驚きや発見、学びがあったのではないだろうか。

(取材・文/中山恵子)

福岡県の小学校のシネコポータル。花と野菜を混ぜて植えるか、分けて植えるかなど、児童たちで話し合ったという