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「小さな生態系づくり」に挑戦した子どもたちの学びを報告(前編)

ソニーの「シネコポータル・ワークショップ」に6校の小学生が参加

子どもたちが植物の栽培や観察を通じて学びを深めることは、自然に触れる機会が減った現代だからこそ貴重な体験となるだろう。ソニーの教育プログラム「CurioStep with Sony(キュリオステップ)」では、<生態系をつくって、育てて、考える『シネコポータル・ワークショップ』>を昨年から開始しており、2年目となる今年は、5月下旬から約6ヵ月間にわたり、日本全国から募集して予め選ばれた6つの小学校の児童がシネコポータルづくりにチャレンジした。11月にはオンラインで最終報告会を実施。その模様を紹介するとともに、ワークショップの意義や手ごたえを担当者に聞いた。(トップ画像は、神奈川県の小学校のシネコポータル。ヒマワリがたくさん咲いた)

シネコポータルとは、小さな生態系を実際につくりながら、環境とのつながりを感じて学んでいく「入り口」となるもの(詳しくは※1)。今年は、5月下旬からワークショップをスタートした。参加小学校は、福島県、新潟県、群馬県、神奈川県、兵庫県、福岡県の全6校で、児童たちは、さまざまな植物を植え、収穫を行い、植物の成長やそこに生息する生物の観察記録をつけた。そして、他校と意見交換するためのオンライン報告会を全3回実施。夏休み前後には、本ワークショップのナビゲーターである福田桂(ふくだ・けい)氏が出張授業を行い、児童が育てているシネコポータルを実際に見ながら講義やアドバイスを行った。

新潟県の小学校のシネコポータル

枯れた、育った、実がなった、と児童たちが報告

オンライン最終報告会は3校ずつに分かれて行われ、半年間の学びを振り返った。児童たちからは、「枯れた植物と成長した植物があった」「実がなって嬉しかった」「種を大きさ別に分けて植えて観察をした」「アロマティカスのにおいを嗅いでみた」「秋植えで咲いた花は、花の色が違っていた」など、さまざまな体験や気付きが発表された。また、他校の発表を聞いて、「カラフルだった」「学校によって個性がある」などの感想も聞かれた。実際に植物を育てて観察したからこそ気付いたことを積極的に話す児童の姿が印象的だった。

福岡県の小学校のシネコポータル。収穫の喜びを味わった
群馬県の小学校のシネコポータル。アロマティカスなどのハーブも植えた

気付く、調べる、考える、学びのサイクルをサポート

子どもたちが半年間かけて小さな生態系をお世話する、という大掛かりなワークショップだが、そもそもどのようなねらいで始めたのだろうか。CurioStepを担当しているソニーグループ株式会社サステナビリティ推進部CSRグループの山本理恵子(やまもと・りえこ)氏は、こう説明する。

「CurioStepでは、これまで1日数時間の単発や長くても2週間のワークショップを開催していましたが、昨年初めて約半年にわたる長期間のワークショップとして、シネコポータル・ワークショップを開催しました。単発のものでは子どもたちの好奇心をひろげる“きっかけ”づくりはできますが、その後のサポートを継続して提供することには難しいところがありました。シネコポータル・ワークショップは、約半年をかけて継続的に行うことで子どもたちが興味をもったことをきっかけに、まずは挑戦して、そこで気づいたことや感じたことを、自分で調べたり、考えたりするなかで、また新たな問いを立てて、さらに試してみる、という学びのサイクルを回すサポートができればと考え実施しました」

新潟県の小学校のシネコポータル
兵庫県の小学校のシネコポータル

初年度は、全国各地の6つの小中学校が参加したという。

「昨年のワークショップで印象に残っているのは、初めの頃は『水は何回、いつあげればいいの?』『種はいつ植えたらいいの?』と答えを求める質問が多かったのですが、後半になると『水をあげるシネコポータルと、あげないシネコポータル、2種類つくって実験したよ』など、実際に考えて試した結果を教えてくれる子どもたちもおり、視点の変化が感じられたことです。ただ、すべてオンラインだったので、次回は子どもたちが育てるポータルを囲みながら授業をしたいと思いました」
続きは明日掲載の(後編)にて。

※1
シネコポータルは、小さな「拡張生態系(※2)」を実際につくりながら、環境とのつながりを感じて学んでいく「入り口」となるもの。この小さな生態系は、近くの植物や動物、雨や風や光、そして遠く離れた場所にある別のポータル、まだ会ったことのない人々との交流を通じ、誰もが生態系の豊かさにつながれるきっかけになるようデザインされている。

※2
拡張生態系とは、ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチディレクターの舩橋真俊氏が2010年から進めている「Synecoculture(協生農法)をはじめとする拡張生態系」の研究に基づいたもの。人間が生態系の拡張原理に基づいて生態系に関わることで、生態系の多様性や機能性を拡張することができ、その結果、自然生態系を超えて生物多様性や生態系機能が高まった状態の生態系を「拡張生態系」と呼んでいる。その原理に基づいた農園が「協生農園」で、シネコポータルは「協生農園」の一部を取り出したものといえる。

シネコポータルについてはこちら
拡張生態系の研究についてはこちら

(取材・文/中山恵子)