夏休み明けは、子どもの不登校が増えるといわれている。その理由や子どもが発するサイン、保護者がとるべき対策などについて、東京都立小児総合医療センター 子ども家族支援部 心理福祉科の菊地祐子先生に話を聞いた。前編(7月19日配信)に引き続き、後編をお届けする。
「学校に行けなくても、あなたがいるだけでいい」と伝えることが大事
――夏休みが明けて、子どもが学校に行きたがらない場合、保護者はどのように対応すればよいでしょうか。
菊地氏:保護者の方に知っておいていただきたいことは、「よし、学校を休もう」なんて思っている子どもはいないということです。「絶対に行こう」と思っているけれど、起きられなかったり、気持ちがついていけなかったりして、実際には学校に行けず、しょんぼりしてしまうのです。ですから、「この時期は学校に行けない子も多いんだって。でも、行けないからって、どうということはないよ。何かあれば相談に乗るよ」と伝えてあげてほしいですね。あとは、学校に毎日行くのか行かないのか、つまり「100か0か」の思考を大人がやめること。「今週は月、火と行ったから、水曜は休んでもいいよ」というように、100が無理なら50や20でもいい、と提案してあげることで、子どもも気持ちが楽になると思います。
――不登校の一因は“充電不足”(心身が疲れていてエネルギーが消耗している状態)というお話がありましたが(前編参照)、夏休み明けに不登校になるのは、休息が足りなくて充電できていない、ということですか?
菊地氏:最近の子どもは忙しいので、休めていない可能性はありますね。十分に休ませているにもかかわらず、子どもが「学校に行きたくない」と言っている場合には、「行ってみようか」と保護者が背中を押してあげることも必要です。ただ、なかにはいくら充電しても元気が回復しない子もいます。たとえるなら、充電池そのものが少し壊れてきている場合です。そのような状態の子に「頑張って学校に行きなさい」と言い続けたら、さらに壊れてしまいます。
――その場合、保護者はどのような声かけをすればよいのでしょうか。
菊地氏:彼らは何らかの理由で深く傷ついているので、学校に行けないというだけで、「そんな自分はいないほうがいいんだ」と思ってしまいます。そう思わせないために、保護者は「学校に行けなくても、あなたがいるだけでいいんだよ」と、子どもの存在を認める言葉をかけてあげてください。同時に、充電池を修理しなければなりません。それを行う場所が医療機関なので、早めに受診をしてください。
悩みがあるけれど保護者に話したくないときは、3人の大人に相談して!
――医療機関を受診する目安を具体的に教えてください。
菊地氏:「休んでいいよ」と言っても休まない場合、「お腹が痛い」などの身体化が続く場合、「家で暴れる」などの行動化が激しくなる場合、不眠や食欲不振が続く場合は、専門家に相談しましょう。まれですが、小中学生でもうつ病や統合失調症が原因でこのような症状が出ていることもあるので、病気を見極めるためにも専門家の診察を受けてください。
――まずは小児科に相談すればよいでしょうか。
菊地氏:はい。最近は小児科の先生でも心の問題を扱える方が増えているので、かかりつけの小児科医に相談して、児童精神科での治療が必要かどうか判断してもらうとよいでしょう。各都道府県の市区町村が設置している「教育センター」や「教育支援センター」、「児童家庭支援センター」などに相談することもできます。病院や公的機関を積極的に利用して、子どもと保護者以外の大人をつないであげるとよいと思います。
――子どもと保護者以外の大人をつなげるのはなぜですか?
菊地氏:「学校に行けなくて苦しい」という気持ちをわかってくれる大人がひとりでも多くいれば子どもにとって支えになりますし、保護者以外の大人からいろいろな考えを聞くことで視野を広げることができるからです。また、思春期の子どもの場合、保護者をうっとうしいと思うことも多いので、他の大人が相談相手になった方がよいこともあります。さらには、専門家に相談するというスキルを身に付けることにもつながります。不登校を放置されている子どもの中には、学校に行くふりをして街をブラブラして悪い大人と知り合ったり、SNSで知らないおじさんに相談したりしてしまう子がけっこういるんです。そういう子たちは、誰かに承認してほしいけれど身近に相談できる大人がいないから、知らない人とつながりを持ってしまうのです。
――それでトラブルに巻き込まれることも多いので心配ですよね。
菊地氏:そうですね。私はいつも子どもたち(患者さんのこと)に、「困っていることがあって保護者に相談したくないときは、大人3人に相談しなさいね。そのうちの一人は、私だといいな」と伝えているんです。最初の人がちゃんと話を聞いてくれなかったとしても、あきらめずに2人目、3人目と相談してみれば、誰か一人はよき理解者になってくれると思うのです。そうやって子ども自身が正しい相手に相談する術を身に付けていくことも大切です。
――不登校に限らず、さまざまな悩みに直面したときに役立つスキルといえますね。ありがとうございました。
(取材・文/中山恵子)