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夏休み明けは不登校になりやすい時期。サインと対策は?(前編)

夏休み明けは、子どもが不登校に陥りやすい時期といわれている。その理由やサイン、対策、帰国子女ならではの問題などについて、東京都立小児総合医療センター・子ども家族支援部門・心理福祉科の菊地祐子先生に話を聞いた。菊地先生は、精神保健指定医・精神科専門医で、児童思春期精神医学が専門。

子どもは悩みを体の症状や行動であらわす

――夏休み明けに不登校になりやすい理由はなんですか?

菊地氏:1つめは、単純に生活リズムが崩れることです。夜更かしや食生活の乱れによって体力が落ちて、学校に行けなくなります。2つめは、1学期(※編集部注:4月~7月の夏休み前の期間。以下同)に起きたつらいことが解消されないまま夏休みに入ってしまったケースです。夏休み中はその問題を棚上げして過ごせますが、いざ学校が始まるとなるとその問題が思い起こされて、行くのがつらくなってしまうのです。3つめは、1学期の疲れが夏休み中に癒えなかったケース。誰もが学校という場所になじめるわけではなく、もともと合わない子もいます。そのような子は学校生活で感じる疲れが大きいのですが、夏休み中も塾などで忙しくしていると充電が十分にできず、学校に行く体力や気力が出てこないのです。

――不登校につながりそうなサインに気付くには、子どものどんな様子に注意したらよいですか?

菊地氏:子どもはストレスや悩みがあるときに、それを言葉で表現することが難しいんですね。言葉にできない場合はどうなるかというと、身体化といって、体の症状に出ます。子どもは何か嫌なことがあると「お腹が痛い」「頭が痛い」などと言いますよね。本人の気分的には本当に痛いのですが、腸炎や発熱などの病気がないのであれば、保護者の方は、「心と体はつながっているから、心の悩みがお腹の痛みになって出てくることもあるよ。何か悩みはない?」と聞いてあげるとよいでしょう。

――子どもの訴えが身体化している場合は、気を付けてあげればよいのですね。

菊地氏:はい。身体化できないこともありますが、よくあるのが、子どもが「お腹が痛いから学校休む」と言っても、親が「甘えてるんじゃない!行けー!」と怒るような場合、子どもは身体化を封じられます。すると、今度は行動化して、布団から出てこない、家に引きこもる、不登校になる、家庭内で暴力をふるうなど、問題行動が起こってくるのです。このようないわゆる“困った子ども”は、“困っている子ども”なんです。子どもは何に困っているのかを、周囲の大人は一緒に考えてあげてほしいですね。そして、子どもから悩みを聞いたら、どんなに小さなことでも受容しないといけません。

――「そんなささいなことで?」などと言ってしまうのはダメなんですね。

菊地氏:ダメです。「宿題が多すぎてできないんだもん」とか「学校で友だちに嫌なことを言われたんだもん」とか、大人から見るとどんなに小さな理由でも、「そうなのか。つらかったね」と聞いてあげないと、子どもは二度と理由を話さなくなってしまいます。とはいえ、家で暴れるなどの行動を許容することはできないと思います。大事なのは、“受容”と“許容”は分けて考えることです。「宿題が多くてできないのはわかったよ。だからって、家で暴れちゃダメだよね」と。気持ちは受容して、行動は許容するかしないかはその時々で判断してください。不登校の場合も、子どもを少し無理してでも行かせた方がよいか、休ませた方がよいかは、個々の状況によりますね。

――先生はこれまで多くの不登校の患者さんをみてきていらっしゃいますが、帰国子女ならではの問題はありますか?

菊地氏:帰国子女だけでなく、国内の他地域からの転校生にもいえることですが、これまでとは違う文化や制度の中で新しい人間関係を築かないといけない、ということは、大人が思っている以上に、子どもにとっては大変なことなんです。ですから、楽しそうに学校に通っているように見えても、実は誰かに何かを言われて傷ついていたり、疲れていたりすることもある、ということを大人はわかってあげてほしいですね。また、転居などで環境が変わるときは親御さんも忙しくてピリピリしているので、子どもはストレスを抱えていても相談できないケースもあります。「何か悩みがあったら言ってね」というように、いつでも話を聞く姿勢を示してあげることが必要です。

夏休みはエネルギーの充電期間。まったり過ごしてみては?

――“夏休み中に充電できなかったことが不登校の理由になりうる”というお話がありましたが、夏休みの過ごし方で心掛けたほうがよいことはありますか?

菊地氏:まったり過ごしたらよいのではないでしょうか(笑)。子どもはそれぞれエネルギーを持っていて、そのエネルギーを学校や塾などで使って、家で休んで充電して、また学校で使って、というのを繰り返していますが、悩みやストレスがある子は消費するエネルギーが大きいので、充電がだんだんと減っていきます。そういう意味では、夏休みはフル充電するよい機会です。遊園地に行くなどのイベントも大事ですが、それも学校と同じで、行動することで得られる楽しさや満足感なんですよね。最近の子どもは忙しいので、活動してばかりでエネルギーがスカスカになりがちです。だからこそ、ぼーっとして過ごすことで充電を満たしてほしいのです。それは、「あなたがいるだけでいいんだよ」と存在価値を保証する時間でもあります。

――昔の夏休みの記憶といえば、祖父母の家に泊まりに行っても、することがなくて暇だったことです。それでも楽しかったのですが(笑)。

菊地氏:早く夏休み終わらないかなー、って思ってましたよね。あの暇な時間が、“まったり”を満たしていたんですね。夏休みは、近所のプールにちょっと行ってから昼寝するとか、おやつ食べながら漫画でも読むとか、そんな“まったりタイム”を親子で過ごすのがよいのではないでしょうか。

後編(8月23日配信予定)に続く

(取材・文/中山恵子)