不登校の本人&家族の思いを詠んだ川柳を鑑賞

不登校の本人・家族が応募した川柳390句
不登校は、子ども自身の苦悩に加えて、家族もまたさまざまな思いを抱える経験です。経験した・しているご家族はもちろん、できれば経験せずに大人になっていってほしいと願う就学児のいるご家族などにとっても、少なからず気になる話題でしょう。
ウェブメディア「不登校オンライン」は2025年2月に《大募集!みんなの不登校川柳》を実施。「不登校の本人(当事者・経験者)」からは162句が寄せられ、その中から大賞1句、優秀賞1句、佳作33句を選出。親・家族・親戚など「不登校の本人(当事者・経験者)以外」から228句が寄せられ、大賞1句、優秀賞1句、佳作33句が選出されました。
選ばれた作品群からは、当事者だからこそ紡ぐことができる等身大の声や、家族一人ひとりが不登校という現実に向き合い、ともに歩んだ時間が、濃密ににじみ出ています。五・七・五の一つひとつに込められた不登校のリアルを垣間見てみましょう。
全句については「不登校オンライン」ご参照いただくとして、弊サイトでは特に親目線で目に留まった句を中心に見ていきます。
《不登校川柳 優秀作品のご紹介》
本人(当事者・経験者)編: https://futoko-online.jp/questionnaire/14364/
親・家族編: https://futoko-online.jp/questionnaire/14363/
不登校でも、成長している!
〇本人編大賞「学校に 行かなくたって 成長中」(アトランティスみゆう)
【作品に込めた想い】
中学生の頃、不登校でした。行っていない間は人が知らないような知識を本から吸収したりネットから吸収したりして、確かに成長していたと今になり思います。
〇佳作「動画見て 豆知識だけは 増えていき」(英単語は覚えられない)
【作品に込めた想い】
学校へ行けなくなり、昼間寝ているのも違うなぁとは思うけど、何もやる気が出ず、ずっと動画を見ていました。とりあえず、どうでもいい知識だけ増え、母に「そんなのは知らない」と、よく言われます。
〇佳作「夜型の 英才教育 だったかも」(元サナギ)
【作品に込めた想い】
今は完全に夜型の仕事をしています。学校に行きたくなかった中学生の頃は文字通りこのまま朝が来なければ良いと願っていましたが、思い返せば、あれは、今の仕事に就くための英才教育だったのかもしれません。
不登校になると、親は、子どもが学習ができず、子どもにとっての時が止まってしまったかのように思いがちですが、子どもは学校生活とは違う形で成長しています。彼らの句からは「自分なりに生きていた」時間の中で芽生えた気づき、癒し、そして希望が感じられます。不登校であったことが“間違い”ではなく、その人の人生の一部として、確かに意味を持っているようです。
そっと見守り、寄り添う親の姿が子に響く
〇佳作「行き過ぎた 心配ちょっと プレッシャー」(ゆっちーず)
【作品に込めた想い】
どうしたの? 病気じゃないの? とずっと言われるとどんどん自分を責めたり、プレッシャーになってしまった経験から。そっと見守る、寄り添ってくれるとうれしいです。
〇佳作「母の声 優しさ溢れ 心痛い」(ましろ)
【作品に込めた想い】
母はいつも心配で優しく声をかけてくれました。その優しさに応援、支えられつつも、学校を行くことができていない自分に嫌気がさし、母のその優しさに心が痛みました。
〇佳作「見守って くれてた恩を 子に返す」(しおりどん)
【作品に込めた想い】
不登校になっても見捨てずに育ててくれた母の愛に気付きました。この恩は子どもに返し、子どもが不登校になっても見捨てずにいようと思いました。
子どもが不登校になったとき、親としてどのように対応すればいいのか難しいですが、やはり、あまり心配している様子を前面に押し出してしまうのはNGで、「そっと見守る、寄り添う」というのが大事なのでしょう。そうしていると、子どもはちゃんと親の気持ちを受け取ってくれているようです。
子どもが生きてくれていることが一番大事
〇親・家族編大賞「何大事 子どものいのち それだけだ」(西瓜大好き/母親)
【作品に込めた想い】
子どもが完全不登校となり、塾も拒否、近隣の公園にいくことも拒否した時、親の私は精神的に崩壊しかけました。そんな中ふと、自分が子どもに何を1番望んでいるのか考えたところ、1番の希望は子が生きてくれること。それに気づいてから、社会や世間の常識にとらわれず、子が笑顔で生き生きと毎日を楽しく生きてくれるよう、子に寄り添えるようになりました。
〇優秀作「良かれより マイナスならぬと 口つぐむ}(たかとも/母親)
【作品に込めた想い】
こちらが良かれと思って言った声掛けが、子にとって逆に イラッとしたり、皮肉に聞こえるたりして、親子の関係が悪化する。それならば、私はその時に、ここは黙っておいた方が良いとぐっとこらえる。
〇佳作「不登校 時々家で 親孝行}(徳田ラッキー/母親)
【作品に込めた想い】
息子が生きてくれているだけで、会話ができるだけで、私には幸せ。時々だけど、皿洗いもしてくれて。そのうえ自宅警備員まで(笑)。
〇佳作「もういいよ 娘の涙に ほだされて」(bobby/父親)
【作品に込めた想い】
娘の頬を伝う涙を見ていると、もう学校に行かなくてもいいよって言いたくなります。
〇佳作「強いから 『行かぬ勇気』も もっている」(きゅうりのたこよ/父親)
【作品に込めた想い】
行きたくない気持ちを我慢して学校に行くことも勇気がいりますが、学校を休むことも勇気がいることだと思います。
皆さん、最初は学校に行くように諭したり、子どもをひどく心配してしまうことでしょう。しかし、あるときふと「子どもが生きてくれていることが一番大事」と気づき、子どもの現状を受け入れていくようです。不登校の子を見守るご家族に、絶対の正解はありませんが、「生きていてくれればそれでいい」と願うその想いこそが、何よりの答えなのかもしれません。
不登校でも、成長した姿を見せてくれる
〇佳作「引きこもり 10年経てば 出て行った」(coni/父親)
【作品に込めた想い】
実話。
〇佳作「君の背を 眩しく送る 心かな」(みき/母親)
【作品に込めた想い】
小2で不登校になった長女が今年4月から通信制高校に入学します。いつの間にか前に進み、自分の道を歩んでいる娘にエールを送るとともに、自分も人間として成長したなと思っています。小2の次女も絶賛不登校中ですがどんな道を行くのか楽しみです。
不登校のただ中の時期は親もつらいでしょうが、成長した姿を見せてくれるケースも多々あります。明るい兆しを詠んだ句には励まされます。最後に、読者諸氏と同様に海外在住の方がお子さんが不登校になったときのことを詠んだ句をご紹介しましょう
〇佳作「ひきこもり 見えない仲間 異国にも」(わをん/母親)
【作品に込めた想い】
海外在住で、我が子が不登校と引き籠りを経験しました。日本にあるような不登校親の会がなくて心細い想いをしましたが、「不登校オンライン」を読むことで、一人じゃないと安心できました。
「親であること」の、正解のなさに寄り添って
不登校オンラインは寄せられた川柳「本人編」「親・家族編」について、次のようにコメントを寄せいています。
「本人の川柳には、当時は声にならなかった『心のつぶやき』に耳をすませて 、『誰にも言えなかった気持ち』や『うまく言葉にならなかった想い』が、五・七・五にそっと収められていました。
『親・家族編』に寄せられた川柳たちは、親として、家族として、子どもを支えようとする日々の中で揺れ動いた“心の記録”そのものでした。『励ます言葉』が届かない日、『ただそばにいる』ことしかできない夜。昼夜逆転のお子さんに、それでも毎朝『おはよう』と声をかける。その繰り返しが、どれほど尊く、尊重されるべきものか————作品のひとつひとつが、静かに語ってくれています。
不登校オンラインが、みなさまの『想い』を繋ぐ一助となったなら幸いです」
(取材・文/大友康子)