国際化が進む中で、海外から帰国した生徒(帰国生)を受け入れる高校は、国公私立を問わず日本全国で増加中。高校での「帰国生入試」の概要、実態、準備方法をお伝えします。
目次
基礎知識
滞在時からの準備
帰国生に対して特別な受け入れ枠を持つ国公立高等学校
お役立ち情報
出願資格
帰国生入試を受験するための条件は、主に次の2つ。
- すでに海外・日本国内合わせて9カ年の学校教育課程(小学・中学課程)を修了している、または入学年の3月末日までに修了見込みであること。
- 海外の学校に継続または通算して在籍した年数が一定以上あり、帰国日から受験する日までの年数が経過しすぎていないこと。
2.の年数は2年以上、「帰国から受験までの経過期間」は1~3年の間で設定されることが多い。そのほか、条件が追加される場合、
- 「入学後は保護者と同居すること」
- 「指定する通学地域に居住すること(または、その予定があること)」
- 「保護者の帰国後に受験者本人だけで在留した期間や、本人単独で留学した期間は、海外の学校での在籍年数に含まない」
などが代表例だ。
選考方法
首都圏の一般入試では、私立は3教科(英語・数学・国語)、国公立では5教科(英語・数学・国語・理科・社会)での学科試験を中心にした選考が行われている。
しかし帰国生入試では、国公私立問わず海外で受けてきた教育内容に配慮して一般入試とは別の観点から評価できるよう工夫されていることも多い(下記参照)。学科試験の教科数が5教科ではなく、3教科に軽減されているケースもある。
帰国生入試における4つの主な選考方法
書類・作文・面接 | 「帰国生の受け入れ」を主な目的として設置された学校を中心に実施。学科試験は行わず、海外で在籍していた学校での成績表や活動歴などを記した「書類」、日本語または外国語(英語の場合が多い)による「作文」、「面接」で選考する。 |
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英語力を重視 | 私立の進学校などで実施。学科は「英語」のみ、またはそれに「国語」が加わったり、「作文」「適性検査」「面接」が加わることも。3教科の学科試験を課す場合でも、「出願書類の英語能力試験の成績を含めて評価」するなど英語力を重視した措置が執られている。 |
帰国生専用の問題 | 一部の学校で実施。専用に作られた学科試験(3教科または5教科)で選考される。「数学」「国語」は一般の入試問題より難度を下げる、「英語」をやや難しくするなどの工夫がされることも。 |
一般と同じ問題 | 国公私立の難関校で多く実施されている。一般生と同等の学力を要求するもので、帰国生には合格基準点を若干下げるなどの配慮がされることもあるが、競争はかなり厳しい。 |
情報収集
志望校の選定は、海外にいても可能だ。インターネットでウェブサイトを閲覧したり、海外から書籍を入手したりするほか、日本からの駐在員が多い都市などに滞在していれば、現地の進学塾で情報を大量に仕入れることもできるだろう。
選ぶ際、帰国生を受け入れている日本国内の学校の体制は大きく3つ(下記参照)に分かれることをふまえ、親子で比較・検討してみよう。
帰国生受け入れ校の教育体制の代表例
- 帰国生の受け入れを主な目的として設置され、生徒の大半を占める帰国生のことを中心に位置付ける教育環境を持つ学校。
- 帰国生受け入れが主な目的ではないが、日本語の補習や一般生とは異なる特別な語学クラス、帰国生にも対応した生活指導センターなど、帰国生に対する“何らか”の体制を持つ学校。
- 帰国生枠での入試制度は設けるが、帰国生を対象にした特別な受け入れ体制を持たず、基本は一般生と同様の教育を行う学校。
POINT!
グローバル化で帰国生入試を本格化させる学校が増えたり、不透明な大学入試改革で大学附属校の人気が高まったりと情報は常に流動的です。
志望校が固まり始めたら、実際に学校へ足を運んでみたい。帰国生を受け入れている学校では、帰国生に対応した学校説明会や入試説明会を開催するだけでなく、事前に問い合わせれば個別の学校訪問に応じてくれるところが数多い。
さらには、文化祭などの行事を公開していれば、それに行ってみるのも一案だろう。里帰りや一時帰国を利用して、参加してみることをぜひおすすめする。
ただし、参加には事前の予約が必要になる場合や、帰国生としての資格認定を義務付けている学校もあるので、計画はお早めに。
出願書類の手配&作成上の注意点
出願書類の入手開始時期は、「4月入学」の場合は入学前年の7月頃、「9月入学」では入学の数カ月前の6月頃からが一般的です。
入学願書一式 | 最近はインターネット上で出願できるWEB出願の採用校が増えているが、すべてをWEBで行えるわけではなく、WEB出願後に成績証明書や推薦書などの送付が必要になることも覚えておこう。 |
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現地在籍校の在学・卒業・成績証明書(*) | 学校により提出書類は異なるが、在学・卒業証明書に加え、成績証明書(原紙)、または成績表のコピー提出が通常。「厳封」は現地の先生に説明が必要。和訳添付の場合、教科名や成績表の評価の基準も説明しておく(例:1が一番よく、5が一番悪いなど)。 |
海外在留証明書 | 海外に何年在留していたかを証明する書類で、通常保護者の勤務先が発行する。パスポートコピーの提出で出国・帰国日を確認する学校や、規定の用紙への記入、勤務先の公印を求める学校もある。 |
海外滞在歴一覧・志望理由書 | 本人作成の海外滞在歴の提出を求める学校も多い。志望理由書は考えをまとめ、丁寧に自筆する。 |
受験料納入証明書 | 支払い方法は3つ。
|
日本国内の中学校の成績証明書(調査書) | 帰国後、日本国内の中学校に在籍した場合は、成績証明書(調査書)が必要になる(一般生と同じもの)。入試の日程を考え、早めに中学校の担任に依頼することを心掛けたい。 |
*このほかに、語学運用能力のスコア・各種表彰状などの提出を求める学校もある。
スケジュール
気をつけたいのは、子どもが全日制日本人学校ではなく、現地校やインターナショナルスクール(以下、インター)に通っている場合だ。~情報収集~でも述べた通り、日本の高校を受験する際は一部の学校を除き、「入学年の3月末日までに9カ年の学校教育過程を修了、またはその見込み」が資格となっている。
しかし、現地校やインターに通う場合は、日本の学校の修了月との違いから、その条件を滞たす前に受験期が来てしまう。
この“ズレ”に対処する代表的な方法は4つある。
9年間の学校教育課程を修了&見込みにする方法
- 早めに帰国して中学校に編入し、3月末日までに修了見込みとする。
- 海外の全日制日本人学校に編入し、3月末日までに修了見込みとする。
- 海外の学校(中学相当)をそのまま卒業し、日本の高1途中(多くは9月)に編入学する。
- 海外の学校で高1相当に進み、12~2月に退学して受験し、4月に入学(自動的に1学年落ちる)。
ただ、どれを選ぶにしても、リスクは把握しておきたい。
1.は、日本の中学校に馴染めないことから受験勉強に集中できないことも。
2.は、全日制日本人学校は運営母体が私立なので、いつでも編入学できるとは限らない。
3.は、編入学試験自体が欠員補充であることも多く、志望校が実施しないこともありえる。また実施されたとしても高倍率になりやすい。
4.は、学年が下がることへの精神的なストレスに対してフォローが欠かせない。
とはいえ、こうした方法で見事合格するケースも少なくない。通年で編入学試験を実施したり、入学年の6月卒業見込みでも受験を認める学校が少数ながら出てきたのも朗報だ。
【帰国生の高校入試日程】(昨年までの例)
受験の準備
海外滞在中、受験の準備はどのように進めるべきなのだろうか。「帰国生入試における4つの主な選考方法」ごとに、その対策を紹介しよう。
書類・作文・面接で選考
対策としては、今、海外で在籍している学習や課外活動に力を注ぎ、充実した学校生活を送ることが第一だ。こうした選考では、現地の学校での成績や活動の記録が重要な選考基準となるので、できるだけ良い評価を得ておく必要がある。
また、作文や面接では、異文化での暮らしぶりや、地域とのかかわり方など、学科試験では知ることのできない意欲や知的好奇心の旺盛さを、じっくりと見られることも知っておきたい。
そのほか、作文や面接の対策としては、試験で使用する言語自体の学習、文章作成の練習、これまでの滞在・教育歴を振り返って意見をまとめておくことなどが有効だろう。
POINT!
オンライン面接など選考をオンラインで行う学校が増加しています。事前に塾などのオンライン講座や面接で慣れておくのも◎。
英語力を重視して選考
まず、要求される英語力はかなり高いものだと心得ておきたい。日本の文部科学省が認可している中学校の教科書レベルでは全く足りない。英検®2級相当の英語力があっても、特に人気校やいわゆる難関校では不合格になるケースが相次いでいる。
また、日本の英語問題の形式で出題されることはほぼなく、実践的な力を問う場合がほとんどだ。英語のエッセイを書かせて総合力を図る学校も中にはある。
そのため対策としては、まずは各学校の過去問題を入手して志望校の出題レベルを把握することだろう。またごく一部ではTOEFL®やTOEIC®、英検®の問題集を使って勉強するのが有効な場合も。
帰国生専用問題で選考
求められるのは、日本の学齢での標準的な学力となる。問題のレベルは、日本の文部科学省が認可する教科書内での基礎的な部分にとどめられることが多い。そのため学校にもよるが、極端に難しい受験用の問題集に取り組む必要はなく、学齢に合ったレベルの参考書や問題集を入手して、基礎的な問題を多くこなすことが得策になってくるだろう。
一般と同じ問題で選考
帰国生に対し、選考段階で多少の配慮(合格基準点を若干下げるなど)はしてくれるものの、日本国内のいわゆる難関校を受験する子どもたちと同等の学力を求められることが多い。
そのため、海外にある進学塾に通ったり、通信教育を駆使するなどしながら、日本国内でその学校を志望している受験生と変わらない勉強をしておく必要がある。
帰国生入試の「作文」のテーマ(例)
- あなたが考える「国際人」とはどのような人ですか。
- あなたが考える「未来に残したいもの」は何ですか。
- あなたの家族について教えてください。
- 海外から見た日本はどのようなものですか。
帰国生入試の「面接」での質問(例)
- 自分の性格(長所・短所は何か)
- 日本と滞在国の違い
- 海外滞在中に特に力を入れたこと
- 海外生活で自分が変わったことについての具体例
- 高校生活の抱負
- 将来の進路(夢)
- 中学3年間の思い出
- 異文化との接し方
- 現地校(通っていた学校)の紹介
- 海外から見た日本
- 学校の印象
- 関心のあるニュース(出来事)
- 最近読んだ本(日本語・英語どちらでも可)
- 尊敬する人物
- 家族構成について
- 学校までの通学経路
帰国生に対して特別な受け入れ枠を持つ高等学校
国立高等学校
国立 | |
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東京都 | 筑波大学附属高等学校 |
筑波大学附属駒場高等学校 | |
東京学芸大学附属高等学校 | |
東京学芸大学附属国際中等教育学校 | |
埼玉県 | 筑波大学附属坂戸高等学校 |
愛知県 | 名古屋大学教育学部附属高等学校 |
大阪府 | 大阪教育大学附属高等学校池田校舎 |
公立高等学校
公立 | ||
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北海道立 | 札幌国際情報高等学校 | |
札幌市立 | 札幌旭丘高等学校 | 札幌藻岩高等学校 |
札幌清田高等学校 | 札幌平岸高等学校 | |
福島県立 | 福島南高等学校 | 会津学鳳高等学校 |
いわき湯本高等学校 | あさか開成高等学校 | |
相馬総合高等学校 | 福島北高等学校 | |
光南高等学校 | ||
東京都立 | 立川国際中等教育学校 | 国際高等学校 |
竹早高等学校 | 日野台高等学校 | |
三田高等学校 | ||
千葉県立 | 安房高等学校 | 大多喜高等学校 |
柏井高等学校 | 柏中央高等学校 | |
君津高等学校 | 国府台高等学校 | |
士気高等学校 | 匝瑳高等学校 | |
千城台高等学校 | 東金高等学校 | |
流山おおたかの森高等学校 | 成田国際高等学校 | |
船橋高等学校 | 幕張総合高等学校 | |
松戸国際高等学校 | 松戸馬橋高等学校 | |
柏市立 | 柏高等学校 | |
千葉市立 | 稲毛高等学校 | |
船橋市立 | 船橋高等学校 | |
松戸市立 | 松戸高等学校 | |
神奈川県立 | 伊志田高等学校 | 神奈川総合高等学校 |
新城高等学校 | 西湘高等学校 | |
鶴嶺高等学校 | 相模原弥栄高等学校 | |
横浜国際高等学校 | ||
横浜市立 | 東高等学校 | |
富山県立 | 桜井高等学校 | |
石川県立 | 小松明峰高等学校 | 金沢辰巳丘高等学校 |
鹿西高等学校 | 輪島高等学校 | |
小松市立 | 小松市立高等学校 | |
静岡県立 | 熱海高等学校 | 静岡城北高等学校 |
清流館高等学校 | 浜松北高等学校 | |
浜松湖東高等学校 | 浜松湖南高等学校 | |
浜松南高等学校 | 袋井高等学校 | |
三島南高等学校 | 沼津城北高等学校 | |
吉原高等学校 | 富士東高等学校 | |
静岡市立 | 清水桜が丘高等学校 | 静岡市立高等学校 |
浜松市立 | 浜松市立高等学校 | |
愛知県立 | 昭和高等学校 | 岡崎西高等学校 |
千種高等学校 | 刈谷北高等学校 | |
豊田西高等学校 | 豊橋東高等学校 | |
中村高等学校 | ||
名古屋市立 | 名東高等学校 | |
三重県立 | 桑名北高等学校 | 四日市四郷高等学校 |
稲生高等学校 | あけぼの学園高等学校 | |
いなべ総合学園高等学校 | 川越高等学校 | |
飯野高等学校 | 津西高等学校 | |
津東高等学校 | 久居高等学校 | |
名張高等学校 | 名張青峰高等学校 | |
松坂商業高等学校 | 飯南高等学校 | |
昴学園高等学校 | 宇治山田商業高等学校 | |
鳥羽高等学校 | 尾鷲高等学校 | |
木本高等学校 | 紀南高等学校 | |
北星高等学校 | みえ夢学園高等学校 | |
京都府立 | 鳥羽高等学校 | 西舞鶴高等学校 |
嵯峨野高等学校 | ||
大阪府立 | 旭高等学校 | いちりつ高等学校 |
水都国際高等学校 | 和泉高等学校 | |
佐野高等学校 | 住吉高等学校 | |
東高等学校 | 泉北高等学校 | |
枚方高等学校 | 箕面高等学校 | |
大阪市立 | 大阪市立高等学校 | |
東大阪市立 | 日新高等学校 | |
兵庫県立 | 国際高等学校 | 尼崎小田高等学校 |
鳴尾高等学校 | 明石西高等学校 | |
三木高等学校 | 神戸鈴蘭台高等学校 | |
宝塚西高等学校 | 明石城西高等学校 | |
姫路飾西高等学校 | ||
神戸市立 | 葺合高等学校 | |
姫路市立 | 琴丘高等学校 | |
伊丹市立 | 伊丹高等学校 | |
奈良県立 | 高取国際高等学校 | 法隆寺国際高等学校 |
国際高等学校 | ||
岡山県立 | 岡山一宮高等学校 | 岡山城東高等学校 |
西大寺高等学校 | 総社南高等学校 | |
福岡県立 | 小倉南高等学校 | 小倉商業高等学校 |
北筑高等学校 | 玄界高等学校 | |
香住丘高等学校 | 青豊高等学校 | |
大宰府高等学校 | 福岡農業高校 | |
福岡工業高等学校 | 福岡講倫館高等学校 | |
早良高等学校 | 朝倉東高等学校 | |
久留米高等学校 | 福島高等学校 | |
伝習館高等学校 | ありあけ新世高等学校 | |
東鷹高等学校 | 嘉穂東高等学校 | |
直方高等学校 | ||
福岡市立 | 福岡女子高等学校 | |
大分県立 | 大分西高等学校 | 別府翔青高等学校 |
*2022年10月現在
帰国生&保護者の声
父親:高校は日本で、と当初から決めていましたが、息子がインターの9年生を卒業できるのは、日本の学校に通う子の半年遅れ。受験予定の高校は、中学卒業資格が条件だったので焦りました。全日制日本人学校は通える範囲にないので、2学期初めに母子のみで急遽帰国。地元の公立中に編入して、卒業(見込み)資格を得て、帰国生入試で合格しました。短い間に様々な決定をし、帰国、受験とあわただしかったと思うが息子はよくやってくれました。(子どもはドイツ・インターナショナルスクール→日本・公立中学校→私立・男子高)
帰国生:現地から受験のときだけ里帰りして、最終的には女子校の高等部に合格しました。入学前ぎりぎりまで海外にいられるのは嬉しかったけれど、友だちは、いろいろ調べまくって大学まで進学できる超有名校に帰国生自己推薦という方法で合格していました。前もって書類を出して、受験資格の認定をしてもらうとか、相当情報を集めて準備していたみたい。正直、やられた~と思いました。まあ、私はこの学校で楽しくやって、大学受験でまた頑張っていこうと思います。(アメリカ・現地校→私立・女子高)
母親:日本の学校への提出書類をそろえるのが、こんなに大変だとは思ってもみなくて……。英語の書類に全部和訳をつける学校もあって、英語が得意じゃない私は大苦戦。成績表の翻訳専門業者もあるようだけれど、帰国が決まってから出願までがぎりぎりでそんなことしている時間もなく、家族総出で寝ずに頑張るしかありませんでした。表彰状や検定のコピーを提出したほうが有利な学校もあって、引越し前のごたごたの中、書類探しもひと苦労。日ごろからまとめておけばよかったと反省です。(子どもはシンガポール・インターナショナルスクール→公立高・国際科)
情報の窓口
~海外から取り寄せできる進学ガイドブック~
『帰国子女のための学校便覧』
編・発行/(財)海外子女教育振興財団
『母親が歩いて見た帰国生のための学校案内中学・高校編 首都圏版』
編・発行/フレンズ 帰国生 母の会
監修(DATA除く)/SAPIX国際教育センター
HP https://kokusai.sapix.co.jp