小5の後半で志望校を意識させ、小6の夏までに受験校を絞る
日本の「中学受験事情」をお伝えする今シリーズ。最終回となる今回は、志望校の決定から入試直前までの保護者のサポートについてお届けする。お話を伺ったのは、前回に引き続き「日能研関東」関東中学情報部部長の長谷川信誓(はせがわ・のぶちか)氏だ。
中学受験を目指す場合、志望校の決定はどのように進めたらよいのだろうか。保護者の中には子どもを進学塾に入塾させる時点で「この学校を受験させる」と明確な目標を持っている人もいれば「我が子の実力や志向に合った学校を選びたい」という人もいるだろう。一般的には、志望校の決定は保護者が進学塾などの担当者からのアドバイスを受けながら進める。では、子ども自身にはどのように志望校の存在を意識させたらよいのだろうか。
「日能研では折に触れて、私立の中学校(中高一貫校)に進学すると、どのような学校生活を送れるかなどについて話をします。例えば、私学ならではの面白そうな授業やクラブ活動、公立中学校にはない施設設備、海外研修などの活動などを挙げ、合格後の中学生活がいかに充実しているかを説明します。日能研の卒業生を呼び、中学受験を乗り越えた先輩として実体験を話してもらうこともあります。
また、5年生の後半に『PRE合格判定テスト』という全国公開模試を実施します。これは、6年生の『合格判定テスト』と同様に、志望校を登録してテストを受け、その結果をもとに、選んだ学校に対する合格の可能性を表示するものです。『PRE合格判定テスト』は、6年生になる前に自分の力を確かめ、1年後の受験をシミュレーションすることを目的としており、受験勉強への意欲を高めてもらう機会と位置付けています」
志望校を絞り込む際には、こうした合否判定試験や模擬試験などの結果も参考にしつつ、学校説明会やオープンキャンパスなどを利用して実際に学校を見学することも大切だ。子どもが興味を持って「ここで学びたい」という気持ちになれば、勉強へのモチベ―ションにも繋がる。ではいつ頃までに、どんな基準で志望校を決めればよいのだろうか。
「5年生で第一志望校を決めた後、6年生になってから併願校を選び、模擬試験の結果などを踏まえて、6年生の夏休みまでに受験する学校を6~7校に絞るというのが一般的です。受験する学校を最終的に決める際は、もちろん保護者やお子さんの意見も尊重しますが、必ずお子さんの実力で確実に合格できる学校を入れるようアドバイスしています。保護者の中には『難関校だけの受験でよい』と考える方もいらっしゃいます。でも、もしその学校に合格したとしてもお子さんの力に見合っていなければ、入学後勉強についていけないというケースもあるからです。また、私立の学校には特色ある素晴らしい教育を行い、親身な指導をしてくれる学校がたくさんあります。偏差値だけが学校を判断する基準にはならないこと、お子さんの力は中高6年間の中で伸びていくこと、入学から卒業まで長期的な視野で考えてほしいことなどを、保護者の皆さんに伝え、お子さんのことを考えた学校選びの手助けをしています。」
サポート役となる家族もストレスをためず、子どもと向き合って
6年生の夏休みが終わると、入試本番に向け、子どもたちはラストスパートをかけることになる。保護者とっては最も落ち着かないこの時期、どんなことを心掛けたらよいのだろうか。
「夏休みを過ぎると、保護者の中には『あと、半年しかない』、『このままの成績で大丈夫?』と不安になる方も多いようです。ですが、これは大人の気持ちでありお子さんはこうした‶焦り″の感覚を持つことはあまりないようです。夏休みが終わると、子どもたちは本番に向けてさらにモチベーションを上げ、その頑張りは本番ギリギリまで持続します。実際、6年生の後半で成績を伸ばすお子さんもいるのです。この時期は、学校行事や摸試のスケジュールなどを把握し、お子さんの体調管理などを心がけてあげましょう。
中学受験に向けて頑張っているのは、実はお子さんだけではありません。いつも近くにいてお子さんを見守る家族、その中でも特にお母さんはサポート役として大きな役割を果たしています。そんなお母さんがストレスをためないことも大切です。つい子どもを叱ってしまったり、喧嘩になったりすることがあっても、受験が終われば『ノーサイド』なのです。一つの目標に向かって、家族皆で協力し合うことがより良い結果に結びつくでしょう」
帰国生としての私立中学進学について、長谷川氏は次のように語る。
「帰国生と一口にいっても、これまでの学習環境はさまざまです。英語環境(現地校、インターナショナルスクール)で学習してきた帰国生は、入試においても英語力を生かすのが一般的ですが、以前のように英語だけできればよいということではなく、より高度な英語力のほかに国語・算数の力も求められるようになってきています。また“英語重視型”の帰国生入試で合格を目指す場合でも、万が一のケースに備えて、英語以外の教科をバランスよく学習しておくことで、英語重視型でない他校を受験するチャンスが広がるほか、入学後の英語以外の教科学習に心配がなくなります。
一方、お子さんが日本人学校に通っていた、あるいは英語に慣れる前に帰国してしまったという場合は、“国語・算数型”の帰国生入試で受験が可能です。『帰国生入試を受けるには英語力が十分でない』と悲観せずに、私立中学の入試にはさまざまな形態があること、さらには入学後も英語教育に十分な態勢をとる学校がたくさんあることを知っていただきたいと思います。現在、日本では多くの私立中学校で帰国生の受け入れを積極的に行っています。ご帰国のタイミングを合わせるのはなかなか大変だとは思いますが、合格の定員数が一番多く、試験科目が比較的絞られていて勉強しやすいのは、中学受験なのです。間口の広いといえる中学受験こそ、お子さんの可能性を広げる最良の入試ではないでしょうか。日本に戻られる際には、ぜひお近くの日能研の教室をお尋ねください」(長谷川氏)
(取材/文:橘晶子)