明治維新以来ともいわれる規模での大学入試改革を受け、私立中学入試も大きく変わっています。中学入試に詳しい専門家に、直近に行なわれた入試の傾向を伺いました。
大学入試改革の影響を本格的に受けるが故の安定志向
今回、中学受験をした子どもたちが大学受験を迎える2024年度は、202
0年度から段階的にスタートする新しい大学入試の本格的な施行年となる。明治維新になぞらえるほどの大改革が予想される今回の大学入試改革の影響を本格的に受ける初年度生とあって、日本全国エリア(首都圏・東海・関西・中国)を問わず、例年より「安定」を求める受験傾向が強く見られたという。
そんな今年度の受験傾向について、中学受験塾の日能研関東 関東中学情報部の部長・長谷川信誓(はせがわ・のぶちか)氏は次のように語る。
「新しい大学入試の施行においては、次期学習指導要領下の共通テストでさらなる改革を進める動きなどもあり、まだ確定していない要素が多数存在します。こうした不透明感からか、高大連携教育なども期待できる大学付属校や、難関大学の合格実績があり安定感のある進学校の人気が沸騰しました。このほか、手軽なインターネット出願の普及で、受験生側が結果を見ながら直前の出願をするという状況も増えました。随所で“手堅く、安定を求める”という受験傾向が見られたのです」
首都圏の中学受験者数推移 ※日能研関東調べ
小学校卒業生数 | 受験者数 | |
---|---|---|
2012 | 305,329 | 59,400 |
2013 | 305,185 | 57,600 |
2014 | 303,594 | 57,700 |
2015 | 300,391 | 55,600 |
2016 | 297,634 | 56,400 |
2017 | 291,961 | 57,000 |
2018 | 284,428 | 57,300 |
2019 | 293,437 | 59,500 |
「2019年中学入試」日能研が考える重大ニュース
首都圏エリア(東京・神奈川・千葉・埼玉)
1位 4年連続、中学受験率が上昇
中学受験者数は小学校卒業生数294,437名に対して59,500名ほどで、受験率は20.2%。昨年比約2,200名の増加となった(東京900名、神奈川400名、千葉200名、埼玉700名)。結果、各校の受験を難化させ、合格校への手続き率も上昇。繰り上げ合格が起こりにくくなった。
2位 難関校が続々とネット出願導入
導入校は昨年比47校増の230校に。難関校では「開成」がいち早く導入を発表し、続く「麻布」、「武蔵」も導入に踏み切った。東京都の出願は例年より10日間前倒しされたがネット出願の手軽さゆえに、2校同時出願も目立った。結果、試験の欠席率も一部で上がった。
3位 大学付属校と系属校の人気が加速
2020年の大学入試改革を控え、大学付属校への関心が向上。大学の定員厳格化の影響で、主にGMARCH系が人気に。中学時点での難関校ではなく6年後の合流を期待して中難易度校の人気も高まった。「明治大学付属中野」「明大中野八王子」「青山学院横浜英和」は難化。
4位 算数のみの1科目入試が増加
算数の能力が高い生徒は入学後に学力の伸びが期待できることから、算数1科目による入試が増加した。男子校では同じ実力派の上位校「世田谷学園」と「巣鴨」が実施。「攻玉社」は国語選択を廃止し、算数に一本化した。女子校は「普連土学園」、共学校では「栄東」で実施。
5位 グローバル系の学校が出願数上位独占
東京都の出願者数ランキングの1位(3,861名)は「東京都市大学付属」。続いて「広尾学園」、「東京都市大学等々力」、「開智日本橋」、「三田国際学園」となっており、上位5つまでがグローバル系を特徴とする学校が占めた。
6位 新設や校名変更の共学校人気
新設の共学校が3校、校名変更した共学校が3校と新設・改名ラッシュとなったが、いずれも人気に。中でも21世紀型の教育を目指す「ドルトン東京学園」、海外大学への実績を掲げる「武蔵野大学(武蔵野女子学院より変更)」は初年度で募集定員を上回る人気となった。
7位 交通網発達で都県を跨いだ受験増加
2019年開業予定の相鉄・JR直通線や相鉄・東急直通線など首都圏の交通網が発達。以前より遠方の学校を受験するケースが増加した。神奈川県では新校舎効果の「栄光学園」が、埼玉県では「浦和明の星女子」「淑徳与野」が、東京都内からの受験者数を増やした。
8位 公立中高一貫校の受験者数が増加
公立中高一貫校は私立校との併願率が年々高まっているが、2019年は難関の公立中高一貫校ほど私立校との併願が目立つという結果に。東京都の私立校では、公立中高一貫校を合格した受験者による入学辞退が82件に上り、過去最多となった。
9位 適性検査型入試が話題に
「安田学園」や「宝仙理数インター」がけん引する、科目試験で測れない力を図る適性検査型の入試が話題に。公立中高一貫校のプレ入試として同試験を受験するケースも見られた。「湘南学園」では、小学時代の取り組みなどを動画提出する入試を開始して注目された。
10位 帰国生向けの入試がより多様化
海外居住経験がなくとも高い英語力を持つ受験生に向けた英語特化型の入試は「慶應義塾湘南藤沢」「市川」「桐朋女子」などで行われ大盛況。帰国生入試としては、年内の試験実施に変更した「大妻」、新規参入の「成城学園」、「中央大学附属」が人気に。