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インタビュー|パトリック・ハーランさん「どうしてだと思う?」と疑問を投げかける。その繰り返しが、自分の頭を使って何かを創造できる人を育てる

お笑いコンビ「パックンマックン」の”パックン”としてお馴染みのパトリック・ハーランさん。コメディアンとしての活動はもちろん、流暢な日本語やハーバード大学などでの経験を生かし、MCや大学講師などさまざまな分野でご活躍されています。そんなパックンは現在、2児の父として子育てにも絶賛奮闘中とのこと。今回は、ご自身の子育て論についてお話を伺いました。

教育熱心じゃなくても、母は僕を”その気”にさせる天才だった

決して僕の考えを頭から
否定しないのが母の教育スタイル。
その教えを受け継いで、
僕も子どもと同じ目線でいる
努力をしています。

――まずはご自身の幼少期のお話からお聞かせください。どのような家庭で学んでいたのでしょうか?

パトリック・ハーランさん(以下、パックン) 僕はアメリカのコロラド州にあるコロラドスプリングスという街で育ちました。家庭は決して裕福ではなくて、僕も朝の3時半から新聞配達の仕事をしていたくらいです。我が家は母方の祖父が校長先生、母は音楽の先生、父も空軍アカデミーで先生をやっていた先生一家。だからと言ってものすごく教育熱心だったわけではありませんが、特に母は僕を野放しにしているわけではありませんでした。成績でB評価があると「どうしちゃったの?」と聞いてきたこともあります。

ただ、頭ごなしに「勉強しなさい」と言われたことは一度もありませんでした。母が求めるレベルは低いものではなかったけれど、僕もそれに応えるのは嫌じゃなかったですしね。それに、母は僕を”その気”にさせるのがすごく上手かったんです。母は校閲の仕事もしていたんですが、僕が論文を書いたら「テーマは何?見せてみて」と言ってきて、最初は決してダメ出しから入らず「いいね!」と褒めながら、「でももっとこうするといいんじゃない?」と容赦無く赤ペンを入れてくる!すると僕も「じゃあもっと頑張って書いてみよう」と気分が乗ってくるんです。この姿勢は、後でお話しする僕の子育てスタイルにも大きく影響していると思います。

ハーバードには
あらゆる人種や宗教、セクシャリティを
持つ者が集っていました。
あの場で学んだのは
学問だけではありません。

――パックンは「ハーバード大学出身の秀才芸人」としても有名ですよね。ハーバードを目指したきっかけは何でしたか?

パックン ハーバードに行ったのは単純に「入れたから」。小学3年生の時にはタレンテッド&ギフテッドクラスに入っていて勉強は苦手ではなかったですし、大学に進学するなら評判がいいところか先輩がいるところに行きたかった。なのでスタンフォードやバークレー、プリンストンなども受けましたがどれも落ちてしまって。たまたまハーバードだけ受かったんです。合格した理由は…ある意味馬鹿だったからかな?ハーバードがどんなにハードルの高い大学か知らなくて、おまけに「オレはスゴい!」という過剰な自信があったので、身の程知らずで受けてみたのが功を奏したんだと思います。

ただ進学してからが大変!周りは首席で卒業してきた人ばかりですし、最初のプレイスメントテストで張り切っていい点を取ったら物理学専攻を勧められたはいいけど、授業がまったく分からない。考えた挙句、専攻を変え、もともと好きだった聖書や神話を学ぶために比較宗教学を学びました。

大学で学べたことは学問だけではありません。いろんな価値観の人と触れ合えたことも貴重な経験でした。周りにはユダヤ教徒、田舎者、あらゆる人種、金持ちやゲイ……とてつもないダイバーシティがそこにはあって。そうした人たちが学業の傍ら、スポーツにも文化や政治活動にも、情熱を持って高い目標に向かって努力する姿は刺激的でした。

何事にも疑問を抱くことで頭を使って創造できる人に

パックン

――幼馴染の誘いで渡日され、その後日本で芸能活動を開始されました。現在は東京工業大学の教壇にも立ちながら11歳と13歳のお子さんを育てていらっしゃいます。日本の教育環境はいかがですか。

パックン 僕も今、日本の教育現場に立たせてもらっているのでよく感じるのですが、この国の教育環境は本当に素晴らしい。マナーを守れる学生ばかりで、学校はポイ捨てが一切なく美しいですし、秩序が保たれている。これは世界でも珍しいことだと思います。

ただ、問題もたくさんあります。しばしば言われていることですが、発言をする生徒やオリジナリティを追求する生徒が非常に少ない。アメリカと真逆です。日本の授業で自分の意見を言うのは生徒会長みたいなリーダーや”空気の読めないやつ”くらいでしょう。僕はそこがすごくもったいないと思います。そこで僕は東工大でコミュニケーション論の授業を持っていて、学生たちの秘めた力を引き出すために、僕流のコミュニケーション術を全力で教えています。あまりにも課題が多くて受講生は当初の300人から40人まで減りましたが!

――日本とアメリカ、両方の良いとこどりができるといいですね。

パックン 僕もそう思います。僕の子どもは、今はインターに通っていますが小学4年生までは日本の公立学校に通っていました。それは日本語を習得して日本の文化を学ばせたいという気持ちと同時に、日本の教育精神から得られるマナーの良い日本人らしさを学んでほしかったからですしね。

――お子さんたちとは日頃どう接するよう心がけていますか?

パックン とにかく質問します。目につくものはなんでも指差して「あれはどうしてあんな形だと思う?」などと聞くんです。僕たちの周りにあるものはそれぞれに必ず理由や背景が存在していて、それを自分の頭で想像することで、子どもたちに脳を使う癖をつけてあげたいんです。回答には、僕も母と同じように、決してそれを否定せず「なるほど、いいね!」と言ってあげます。正しい答えを教えるのはその後。もし僕が正解を知らなくても、その場で一緒に調べるんです。

僕は子どもの頃、母に「脳を使う仕事に就きなさい」と言われて育ちました。歳を取って肉体は衰えても、脳は衰えない。だから自分の脳で食える仕事に就きなさいと。僕も今、同じことを思っていて、子どもたちには自分の脳で何かを創造できるようになってほしいんです。そのためには疑問を持つ姿勢を忘れないでもらいたい。父として、そんな子どもを育てるサポートがしたいと常日頃から考えています。

パトリック・ハーランさんの一問一答×10

❶好きな言葉は?
「笑い」

❷嫌いな言葉は?
「嫌い」

❸どんなときにウキウキする?
「海外に飛ぶ飛行機に乗るとき」

❹どんなときにげんなりする?
「外人扱いされたとき」

❺人生でピンチを感じたとき
「CM撮影直前に 鼻が折れたとき」

❻人生でチャンスを感じたとき
「何かにキャスティング されたとき」

❼朝起きていつもすること
「おしっこ」

❽寝る前にいつもすること
「歯磨きとおしっこ」

❾マイブームは?
「トランプ大統領にまつわるニュースを読む」

❿10年後どうしていたいか
「まだ勉強中でいたい」

プロフィール

パトリック・ハーラン

パトリック・ハーランさん

1970年、アメリカ・コロラド州コロラドスプリングス出身。父、母、姉の4人家族。地方の公立高校を卒業後、同校で初めてのハーバード大学進学を果たす。93年に同大の比較宗教学部を卒業し、22歳の時に渡日。お笑いコンビ「パックンマックン」で活動しながら、NHK『英語でしゃべらナイト』などにも出演。現在は芸能活動を続けながら池上彰氏の声かけをきっかけに東京工業大学の教壇に立ち、国際関係理論を教えている。

※2019年11月インタビュー

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