海外赴任で日本を離れなければならない、日本に帰れない、でも子どもは日本の学校に……。そんなとき、寮は便利です。子どもを寮に入れたママたちに、その体験談を伺いました。
Aさん 長男
二男の母。寮に入った子ども/長男 入寮歴/高2~大学2年 寮の種類/大学生用の寮 入寮時の親の滞在国/ニュージーランド
Bさん 次女 三女
四女の母。寮に入った子ども/次女、三女 入寮歴/次女は高1~高3、三女は高1~高2 寮の種類/高校併設の寮 入寮時の親の滞在国/ベルギー
Cさん 長女
二女の母。寮に入った子ども/長女 入寮歴/中3の1月~3月(3学期の間のみ) 寮の種類/学習塾の寮 入寮時の親の滞在国/モザンビーク
寮に入れるきっかけも期間も家庭によって様々
―――お子さんを何年生から寮に入れましたか? 入れた理由も教えてください。
Aさん うちは長男が高2のときに夫のニュージーランド赴任が決まって。初めは家族4人全員で行こうと思ったのですが、長男は大学の付属高校に通っていて、休学できるのは1年間のみ。さらに、休学して日本に戻ったら1つ学年が下がることが分かりまして。「それはかわいそう…」ということで、中学生だった次男だけ連れて行くことにして、長男は高2の夏から寮に入ることになりました。
―――なるほど、お子さんは寮で日本に残り、その他のご家族は海外に行かれたというケースですね。BさんとCさんはいかがですか?
Bさん うちは、ずっと海外で暮らしていたけれど、日本の高校に進学するために子どもたちだけ日本に帰って寮に入りました。寮に入った次女も三女も中学卒業まではベルギーの日本人学校に通っていたのですが、卒業後、高校進学を考えたときに、「現地のインターナショナルスクールに通うか、日本に帰って日本の高校に通うか」の2択を迫られまして。現地のインターに進むとなると、卒業するまで4年間はベルギーにいる必要があります。ですが、次女のときも三女のときも、夫の任期があと4年間もはなさそうな状況だったので、「途中でバタバタと帰国になって編入するよりは…」と思って、最初から日本の寮付きの高校に通わせることになりました。
Aさん 帰任の時期など先が見通せないときに寮付きの学校は助かりますよね。結局、任期はどうだったのですか?
Bさん 実は次女のときに関しては入学後も4年以上ベルギーにいたので、結果的にはインターに進んでもそのまま卒業できたんです(笑)。
Cさん うちは長女が寮に入ったのは、中3の1月~3月、3学期の間のみと短い期間でしたが、本当に助かりました。
―――期間が短いですね。どういう経緯だったのですか?
Cさん 長女は私立の中高一貫校の中1の1学期から2年半ほど休学していたのですが、その中学校から「高校に進むために、中3の3学期(1月)には戻ったほうがいい」と言われまして。中3の3月には夫も帰国の見込みが立っていて家族で戻る予定だったので、長女にはそれまでの3カ月間だけ寮で頑張ってもらおうということになり、一足先に日本に戻るかたちで寮に入りました。
「けっこうやるじゃん!」
と娘の成長を
目の当たりにしました。
寮にも個性あり 子どもとの相性が大切
―――寮はどのように決めましたか? 重視した点などがあれば教えてください。
Cさん うちは、学校からほぼ同じ距離に私の実家(長女にとって祖父母の家)と寮があったので、どちらで暮らすのがいいのか長女に聞いたんです。そうしたら、「寮のほうがいい」と言うので(笑)。
Aさん・Bさん (笑)。そういうものなのですかね。
Cさん 寮のほうが「自由が効く」と思ったみたい。長女と一緒に暮らすのを楽しみにしていたうちの両親には少しがっかりさせてしまいましたが、実際は週末に遊びに行ってご飯を食べさせてもらったりしていたみたいです。
Aさん 自由と言えば、長男が寮を探すときの第一条件は「自由さ」でした。通っていた高校には寮がなかったので、学生寮を3つほど親子で見に行き、本人に選ばせました。寮によっては厳しいところもあって、その中からトイレ付きの1人部屋で、ワンルームのような寮に決めました。高校からも近い大学生用の寮だったのですが、もともと同じ高校の運動部の生徒も受け入れるなどしていて、事情を相談したところ、預かってもらえることになりまして。居心地がよかったようで、そのまま大学2年までそこにお世話になりました。
Bさん 自由さで言うと、娘たちが入った学校の寮はその対極にあるかもしれません。格式と伝統を重んじる寮だったのですが、次女が寮に入った初日に上級生から「寮生活の心得」が書かれた便箋を数枚、渡されたそうです。
Aさん・Cさん それはすごい! どんなことが書かれてあったのですか?
Bさん 先輩や同級生、後輩を「さま」付けで呼ぶ決まりや掃除のやり方などだそうです。私もそれを聞いたときはびっくりしましたが、次女にとっては逆にそれがおもしろかったみたいで。その寮の文化を楽しんでいました。それに、次女を通じてそれを知っている三女も同じ寮に入ったんですよ。
娘たちの成長は
何でも自分でやる
寮の経験が大きいです
TV電話のおかげで親子双方の不安は軽減
―――寮生活の間は、お子さんとどのようなツール・頻度で連絡を取っていましたか?
Aさん 主にTV電話を使っていました。うちは男の子ということもあるかもしれませんが、寮生活を始める前は「一人暮らしできる、やったー!」という感じでウキウキしていたのですが、最初の1カ月くらいは画面越しに「やっぱりさみしい」と涙ぐむことも。でもその後は……わたしに連絡が来るのは用のあるときくらいでしたね(笑)。でも仲良しの弟とは、週に1回くらい長話をしていました。
Bさん 仲良しのきょうだいがいると、似た目線で相談もできたりしていいかもしれませんよね。うちも姉妹で寮が同じというのは、親としても安心感がありました。連絡はうちも週1程度。TV電話で行っていました。
Cさん うちもTV電話やSNSでのやり取りですね。最初は相当、心細そうで毎日のように連絡が来ていましたが、やっぱりだんだん間隔が広がって最後は週末だけに。でも後から知ったんですが、うちも妹とはTV電話をよくしていたみたいです。日本が夜のときに、モザンビークにいる妹の学校が昼休みだったので。
―――学校とは、どのようなツール・頻度で連絡を取っていましたか?
Bさん 私は入寮するときに寮の先生とメールアドレスを交換しましたが、その後、直接連絡を取るようなことはありませんでした。学校から配られるお便りは、娘にスマートフォンで写真を撮って送ってもらっていました。
Cさん スマートフォンって本当に便利ですよね。うちも学校とは一応メールでつながっていましたが、お便りの内容など必要なことは娘から写真付きで連絡が来て、その都度、相談して決めていましたね。
Aさん うちも、皆さんと同じやり取りでした。それに加え、保護者向けの会などについては学校の近くに住んでいた義理の妹が代理で出てくれたことがあり、それはすごく助かりました。
―――ネットやスマートフォンが無かった時代と比べると、頻繁に連絡でき、距離感がすごく近くなったのだなと思いました。そんな中でも、学校の近くに親族がいらっしゃったのはとてもラッキーでしたね。
寮生活を経て、
家族で一番、家族思いの
息子になりました
親の心配よりはるかに子どもの成長が上回る
―――入寮後、お子さんの生活費はどうしていましたか?
Cさん 最初に銀行口座を作ってお金を入れておき、カードは本人に持たせました。うちは入寮が3カ月と短かったので、特別な出費はなく、日々のお昼ご飯を買うのに下ろしていたくらいですかね。寮の食事は朝晩で、お昼はお弁当だったので。
Aさん 必要なものがあれば、わたしがインターネットで注文して息子のところに手配をしたりもしましたが、足りないものは口座から下ろして自分で買うように伝えていました。金額は特に上限を設けなかったのですが、そうすると逆に「使わなきゃ」という気持ちがおきなかったみたいです。
Bさん うちも金額は上限を設けずに、口座に10万円は必ず入っているように夫が管理していました。それで、夫があるとき、次女の口座が1週間ごとに7千円ずつ減っていることに気づいて。「それって1日千円ってことなんじゃない?」と夫婦で笑った覚えがあります。
―――次女さん、しっかり者ですね!寮生活を経て、お子さん自身や親子関係に変化はありましたか?
Aさん うちはすごく家族思いになりました。家族のありがたみを実感したようです。長男はもう社会人ですが、家族での集まりや旅行を一番積極的に提案してくれます。お正月も必ず帰ってきます。
Bさん トイレの掃除や洗濯など、なんでも自分でやらなければいけないという寮生活はとてもいい経験だったようです。一緒に暮らしている今はあまりやらないですが(笑)、こちらも「やればできる」というのが分かっているのは大きいですね。
Cさん 寮に入れる前は「うちの子、本当にやっていけるかしら?」なんて親は心配してしまうんですけど、実は子は親が思っているよりずっとしっかりしていることって多いですよね。うちも娘を見直すところが多々ありました。
Aさん 子どもはいずれ巣立つもの。寮は、親子共々、そのためのステップともなりえますよね。
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取材・編集/本誌編集部、小野眞由子 イラスト/小林晃