滞在地での毎日に忙しくても、気になるのが、帰国後の我が子の学校生活。「日本でも楽しんでもらいたい」という切なる願いを実現するため、保護者が帰国前後にできることとは何でしょうか。臨床心理士の中里文子氏に提案してもらいました。
帰国後の親子での会話のコツと注意点
小学生との会話例
本音を引き出しにくい流れ
今日は学校、楽しかった?
うーん、まあまあ楽しかったかなー。
疲れたけど。
そっか、楽しかったならよかったよ。
給食は美味しかったの?
本音を引き出しやすい流れ
今日の給食はどんな感じだった?
すごく美味しいラーメンが出て、おかわりした!
でも、仲良しの子と一緒にはたべられなくてさ。そこはイヤ。
あ~、そこはイヤなんだ…。
一緒には食べられないってどういうこと?
「上の会話での保護者の質問は、クローズドクエスチョン(はい、いいえ、単語で答えられる質問)のため、尋問のようで会話が発展しません。下の会話ではオープンクエスチョン(考えや感じたことを聞き出していく質問)になっているため、子どもが口に出す言葉の量が多くなります。また上の会話の子どもの発言の最後にある『疲れたけど』は、子どもが本当に言いたかったことです。あとに続く保護者の発言では、それを完全に無視しており、これでは子どもは『分かってくれなかった』と感じて口を閉ざしてしまいます。下の会話のように子どもの最後の言葉を繰り返すようにすれば『分かってくれた』と感じてもらえて、子どもの次の発言につながります」(中里氏)
中高生との会話例
本音を引き出しにくい流れ
日本の学校の授業にはぼちぼち慣れてきた?
授業ね。学ぶ内容も雰囲気も、海外とは全然違うよ。
少し意見を言いづらい。
でも日本の学校の授業にもいいところはたくさんあるからね。
本音を引き出しやすい流れ
ねえ、日本の授業と海外の授業では、どう違うの?
授業ね。学ぶ内容も雰囲気も海外とは全然違うよ。
少し意見を言いづらい。
そっか、少し意見を言いづらいんだね。
どんなところでそう感じたの?
「上の会話では『日本の学校の授業には“ぼちぼち”慣れてきた?』と質問することで、『もうそろそろ慣れてもいい頃だよね』という保護者からの“裏メッセージ”を発信しています。一方、下の会話では保護者が『どう違うの?』と投げかけて、日本と海外の授業について、子ども自身の本音で答えられるようにしています。また、上の会話では子どもの発言を『でも…』と保護者が受け止めることなく否定しています。これでは子どもは本音で話さなくなってしまいます。下の会話のように『少し意見を言いづらい』という言葉を繰り返して受容し、その後にオープンクエスチョン(考えや感じたことを聞き出していく質問)をすると、会話が発展していきます」(中里氏)
お話を伺った方
臨床心理士 中里文子(なかざと・あやこ)氏
同財団の教育相談員として、帰国子女とその家族をサポートする。海外の日本人学校教諭や校長、東京都教育庁の課務担当副参事、港区小学校校長、杉並区小学校統括校長などを歴任。
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