日本語環境にいる期間に本人と保護者が「やるべきこと」と「やらないほうがいいこと」を知る
英語環境で英語力を身に付けて日本語環境に戻った子どもが、日本語力を高めながら、英語力も保持・伸張していく。これを叶えるポイントには、「子ども本人がそれを楽しむこと」「保護者が子どものできていることに目を向けること」などが挙げられるようです。
Try|子ども本人が楽しくて長続きすることを一緒に探す
「言語保持の鉄則は『use(使うこと)& exposure(触れること)』です」(田浦氏)。これを念頭に置いて、保護者は子どもが自然と英語を使えたり英語に触れられたりする“何か”を一緒に探してあげたい。
「英語ネイティブに家庭教師として来てもらったり、英会話学校に通ったり、海外の友だちとメッセージングのアプリ(読み書き)や動画通話アプリ(聞き話す)で交流したり、好きな英語の本を読んだりと、子ども自身が楽しくて長続きすることを1日に20分は必ずさせる。これで英語力の喪失をかなり防止できます」(田浦氏)。「楽しいことなら自分からすすんで取り組みますから、自学自習も成り立ちます」(船津氏)。
Try|日本語力の伸びはそこまで心配せずに見守っていく
子どもの日本語力は、日本の学校に通い、日本で日常生活を送っているだけで、自然と高まっていくという。「ですから、しばらく保護者はやきもきせずに見守っていきましょう。最初のうちは、お子さんが日本語で伝えよう、話そうとしているだけで満点。日本語の間違いを細かく指摘したりする必要はありません。単語の意味を聞かれたら答える、そのくらいでOKです」(服部氏)。
Try|忘れた英語力より保てている英語力に目を向けて褒める
英語4技能のなかで「話す・書く」という能動的な力は忘却が早く、「聞く・読む」という受動的な力は忘却が遅い。これは科学的に証明されていることだという。「お子さんが英語力を落とすとすれば、その順番になるでしょう。保護者は忘却した力について責めるのではなく、保てている力について褒めることが大事。子どもの自信喪失やモチベーション低下を防げます」(服部氏)。
Try|英語のインプットは「聞く・読む」を中心に行う
帰国後の英語のインプットは、忘却の遅い「聞く・読む」を中心にするのがいいと服部氏は話す。「聞くことのインプットには動画や映画、読むことには本の活用を。私がアドバイザーを務める外国語保持教室の帰国子女のなかで、英語力保持に成功した子どもは皆、かなりの量の英語の本を毎日のように読んでいました。ただし、保護者が無理に英語の本を読ませたり勉強をさせすぎたりすると、やる気が萎えてしまい、逆効果になるので要注意」(服部氏)。
忘却の早い「話すこと」に関しては、できる限り多く、話す機会を作ること。「書くこと」に関しては、英語の日記を毎日つけること。これである程度までは保持できるという。
Try|流暢さの低下はしかたのないことと覚悟もしておく
いくら本人や保護者が帰国後に英語力の保持に力を注いでも、英語環境にいたときのようにうまくはいかない。これを頭に入れて、心の準備をしておく必要もあるという。「帰国後に日本の学校に通えば、日本語による他教科の学習に相当の時間が割かれますし、学習内容も年々難しくなります。英語力保持のための努力をしても、帰国の約1年後には、英語の流暢さが下がったことに気がつくでしょう」(田浦氏)。
毎日少しでも英語に接していないとさらに早い時期にそうした体験をするという。「ただし帰国後に母語は大きく伸張します。英語力喪失に関しては、あるところで折り合いをつける必要があります」(田浦氏)。
Try not no|日本適応を優先させ海外の旧友との交流を控えめにさせる
帰国後、日本の学校や生活に早く馴染んでほしいという思いから、海外で親しくしていた友だちとのやりとりを控えめにするよう促す保護者もいるという。しかし、これはNG。「そうした友だちがお子さんの心の支えになっている場合もあるので、保護者が交流を制限するのはおすすめしません。日本の学校での出来事を話すことでストレス発散になることもあるでしょう。海外の学校の様子を聞いて思い出に浸りたいときだってあるはずです。もちろんそれは、英語力保持にもつながること。最近ではSNSや動画通話アプリなどで海外とのコミュニケーションが簡単にとれるのですから、いい時代になりましたね」(服部氏)。
Try not no|英語はネイティブの先生に教わるのがベストだと決めつける
帰国子女のなかには英語の流暢さに満足して、その次段階にある正確さの獲得にまで目を向けない人もいるという。「流暢さ同様、正確さも大事。日本生まれ・日本育ちで苦労して英語教員になった学校の先生は、発音が英語ネイティブのようにうまくはなくても、第一言語の特徴が第二言語に与える影響などを熟知しています。正確さを教わるにはそんな先生がいいでしょう」(田浦氏)。
Try not no|帰国後の学校でも英語にまつわる適応を子ども任せにする
我が子には海外で得てきた英語力を大事にしてもらいたいもの。「ですが、日本では、学校によってはクラスメイトに英語ネイティブに近い英語の発音をからかわれることも。それでわざとカタカナ発音にする帰国子女もいると聞きます。『うちの子なら乗り切れる』とは考えず、保護者が担当の先生とよく話をして、クラスメイトに理解を深めてもらえるよう努力してください」(船津氏)。
Try not no|日本語力同様、国語力も大丈夫だろうと子ども任せにする
学校や日常生活で使う日本語力の発達は特別なことをせず見守っていくとしても、日本の学校の「国語」の教科学習に関しては保護者がサポートをする必要がある。「海外で補習校などに通って学んでいたとしても、帰国後、日本の学校の国語の授業についていくには相当苦労をするはず。その苦労を減らすには、文法や語彙を学ぶことのできる音読が一番です。毎日10分程度でかまわないので、教科書や好きな日本語の本の音読に付き合ってあげてください。続けることで学んだことの定着も期待できます」(船津氏)。
自分で上手に読めない子どもには、まずは保護者が読み聞かせをしてあげるのがいいという。
お話を伺った方
TCL for Kids代表
船津 徹(ふなつ・とおる)氏
2001年、学習塾TLC for Kidsをホノルルに設立し、約20年間で延べ5000名以上のバイリンガルを育成。著書は『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)、『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)など
言語学博士
服部 孝彦(はっとり・たかひこ)氏
大妻女子大学英語教育研究所所長・教授。早稲田大学講師。数多くの著書・講義・講演、検定の監修・面接、文科省が推進するグローバル人材育成関連のプロジェクトなどを通して、日本の英語教育、グローバル教育、帰国子女教育に貢献し続ける。
教育資金コンサルタント
田浦 秀幸(たうら・ひでゆき)氏
立命館大学大学院言語教育情報研究家教授として、子どものバイリンガリティー(言語獲得・保持・喪失)を研究。帰国生受け入れ校で英語教諭を計15年以上務めた経験も。著書に「科学的トレーニングで英語力は伸ばせる!」(マイナビ出版)がある。
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