日本語と英語の両方を年齢相応かつ高いレベルで運用できるようになって、自分の可能性を広げたい―――
我が子がそう願うとき、保護者として、どう応援すればいいのでしょう。4名の言語関係の専門家と、両言語を自在に操る”Super”バイリンガルに近い3名に、そのヒントを伺いました。3つのステップで紹介します。
日英で4技能を自由に使いコミュニケートできる人
バイリンガルを目指す我が子を応援する方法を探る前に、まずは今特集におけるバイリンガルの定後を明確にしておきたい。今特集ではこれを「日本語と英語の両言語で、聞く、話す、読む、各の4技能を自由に使用してコミュニケーションが取れる人」とする。
言語学博士の服部孝彦氏によると、バイリンガルはさらに、3つの種類に分けられるという。ただし、「同じひとりの人間でも、均衡バイリンガルに違い状態に達する時期もあれば、編重バイリンガルの時期、ダブルリミテッドの時期もあります。もちろん、一方の言語をほとんど忘れてしまう時期もあるでしょう。バイリンガルとは、静的なものではなく、常に変化する動的なものなのです」(服部氏)。
バイリンガルを知る①
種類は3つある、能力は個人のなかでも変動
バイリンガルを大きく分けるとこの3種類
1. 均衡バイリンガル(balanced bilingual)
二つの言語で4技能を母語のように操れる人(今特集でいう”Super”バイリンガル)。人によってはこれに近い状態に達する場合もあるが、その状態を継続するのは、極めて困難なため、存在は希少。
2.編重バイリンガル(dominant bilingual)
二つの言語のうち、どちらか一方の言語の4技能を母語のように操れて、もう一方の言語も母語レベルには達せずとも自由に使える人。バイリンガルと呼ばれているひとのほとんどの人はこれに該当する。
3.ダブルリミテッド(double limited)
二つの言語を自由に使えるが、どちらも母語レベルに達しない人。例えば、日本で育って英語圏に渡った人が、日本語を多少忘れつつ、英語はある程度まで使えるようになる状態がこれに該当する。
バイリンガルを知る②
身を置く言語環境が変わると優勢言語も徐々に変化
優勢言語と同時に脳の賦活(ふかつ)も変化
同じひとりの人間でも言語能力が変化するのはなぜだろう。言語学博士の田浦秀幸氏は次のように話す。
「例えばイギリス在住から日本在住に変わると、優勢言語(中心的に使用する言語)が日本語へと徐々に移行します。この変化は言語面だけでなく、言語使用時の脳の賦活(ふかつ)にも見られます」(田浦氏)。
「脳の賦活」とは、脳の活性化のこと。例のように日本語が優勢言語になりラクに操れるようになると、日本語を使う際のエネルギーは少なくて済み、賦活度合いが下がるのだという。しかし逆に言えば、英語を操ることはラクではなくなる。つまり日本在住時の英語保持には、イギリス在住時よりも多くの努力が必要になるのだ。
「日本語優勢になりながらも英語を保持しやすい条件」というのはある?
答えにつながりそうな田浦氏の研究がある。「12 ~ 18歳の中高生(※)を対象にした研究(2008年)で、小学校1年生から4年生までの公教育開始の4年間を“英語圏の現地校”や“英語が学内公用語のインターナショナルスクール”で過ごすと、その後、日本帰国後の年数にかかわらず、非常に高いレベルでの英語力(話す・書くの両面)の保持ができていることがわかりました。ただし、これはあくまで傾向で、ケースバイケースであることも心に留めておいてください」(田浦氏)。
※英語圏在住者については、0歳(英語圏で出生)から小学校高学年まで様々。同時に、インター在学年齢も小学校高学年まで様々。
お話を伺った方
言語学博士
服部 孝彦(はっとり・たかひこ)氏
大妻女子大学英語教育研究所所長・教授。早稲田大学講師。数多くの著書・講義・講演、検定の監修・面接、文科省が推進するグローバル人材育成関連のプロジェクトなどを通して、日本の英語教育、グローバル教育、帰国子女教育に貢献し続ける。
教育資金コンサルタント
田浦 秀幸(たうら・ひでゆき)氏
立命館大学大学院言語教育情報研究家教授として、子どものバイリンガリティー(言語獲得・保持・喪失)を研究。帰国生受け入れ校で英語教諭を計15年以上務めた経験も。著書に「科学的トレーニングで英語力は伸ばせる!」(マイナビ出版)がある。
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