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渡航前とは大きく違う!?帰国前に知っておきたい日本の小中学校の学習環境|変化2

グローバル化、デジタル化、少子高齢化が進みゆくなかで、働き方改革もスタートして5年。様々な要因が絡み合い、義務教育は転換期を迎えています。今回は数ある変化のうち、「学習環境の変化」に着目。私立校だけでなく、公立校でも、時代に合わせた試行錯誤が始まっています。

変化2|小学校での教科担任制導入

BEFORE

学級担任の教員が、一人でほぼ全教科の授業を行っていた。

AFTER

外国語、理科、算数、体育などの教科でその教科を専門とする教員が授業を行う。

個々の可能性を引き出し得意分野を伸ばす

2021年から文部科学省で議論を本格化させ、2022年度から小学校高学年で段階的な導入が始まった教科担任制。これは各教科を専門とする教員が授業を受け持つ指導形態のことで、現時点で導入の優先教科とされているのは外国語、理科、算数、体育の4教科だ。

教育学を研究している明治学院大学文学部専任講師の星野真澄氏は、同制度の一番のメリットを「教科の専門性が高まり、質の高い授業が実現すること」としている。

「小学校高学年というと教科の学習内容が一気に高度化し、同時に児童の興味・関心の多様化も見られる時期です。そんなタイミングで専門性の高い授業を行うことは、個々の可能性を引き出したり得意分野を伸ばしたりする環境を与えることであり、これが中学校以降の大きな成長にもつながっていきます」(星野氏)。

しかし「日本全国すべての学校で本格的に導入するにはまだ時間がかかりそう」というのが星野氏の見解。「課題は、授業を行う教員数の安定的で長期的な確保です。制度開始にあたり当初の計画では2022年度から2025年度までの4年間で必要最少ラインの3800人程を増員予定でしたが、文部科学省が主導する“学校における働き方改革”とあいまって1年前倒しの2024年度までにその増員が叶う見込みです。ただ、こうしたスピードを保つのは簡単ではありません。教員数が十分と言える状態になるまでは、学校現場で“学級担任間で授業を交換する”“学級担任と専門の教員がチームで授業を行う”“中学校の教員が小学校で授業を行う”などの工夫が引き続き求められていきます」(星野氏)。

変化の例|「全7教科での教科担任制を開始して、3年経ちます」/墨田区立二葉小学校(東京都)

臨機応変に時間割を見直し、よりよい運用に

ICT活用機会の増加History

2021年
全校生徒にタブレット端末を配備。教職員の研修をスタート。

2022年
学習アプリ2種類を導入(右記①②)。教職員の研修を繰り返し行う。

2023年
学習アプリをさらに導入(右記③)。さらに教職員の研修を繰り返し行う。

「東京都小学校教科担任制等推進校」に指定されている同校の歩みを伺った。「本校では、同じ区の中学校に籍を置く教員が理科の授業を受け持ってくれることになった2021年に、7教科での教科担任制を開始しました(※)。2022年には専科教員の受け持つ授業を極力増やしながら、文部科学省が示す各教科の標準時間数を満たすため、時間割の改革に着手。年間を通した固定時間割を廃止し、教科の配分が違う時間割を3種類用意して、週別に変えながら授業を行うことにしました。2023年には各教員の週あたりの持ち時数を均衡化することなども考え、さらに時間割を改良。教科担任制の運用と時間割の臨機応変な見直しは、切り離せないと感じています」(同校)。

児童の反応(↓)には、教科担任制の一長一短を見ることができるという。

「こうした思いを受け止め、教科担任制を推進しながらも、学級担任がより様々な学習で児童と関わる仕組みを作っていくことが今の目標です。教科横断的な学習が、その仕組みの根幹になると思います」(同校)。

子どもたちの反応

  • いろいろな先生と関われて面白い。教科担任の先生の授業には説得力がある。
  • 関係をしっかり気づけている学級担任の先生のほうが、相談や質問がしやすい。

※…東京都の小学校では、全国的に教科担任制の取り組みが始まる以前から音楽と図工の専科教員は配置されている。墨田区立二葉小学校では学校の取り組みとして外国語の授業も専科教員が行い、国語と社会と体育はそれぞれを専門とする学級担任が担当することとした。

あわせてチェック! 「クラス担任制」を廃止する学校も

2018年度頃から「クラス担任制」を廃止する学校も出てきた。代わりに、一学年の教員全員がその学年全クラスを受け持つ「学年担任制」や、複数の学年を複数名の教員チームで受け持つ「チーム担任制」が取り入れられている。

お話を伺った方

明治学院大学文学部専任講師
星野 真澄(ほしの・ますみ)氏

筑波大学で博士(教育学)を取得。『アメリカの学級規模縮小政策』(多賀出版)でアメリカ教育学会賞受賞。著書には『チャートで学ぶ教育学』(デザインエッグ社)も。

取材・文/本誌編集部・庭野真実 イラスト/太田マリコ
※今特集に掲載している情報は、2024年2月現在のものです。国の教育方針等は変更される場合もあります。

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