まずは考えを認めてあげよう高校生
大人の一歩手前で、自分の考えを確立する時期。どんな考えでも「一理ある」と認めること、そして進路の希望を可能な範囲で叶える手伝いをすることが、保護者の大事な役割になりそうです。
我が子の主体性の芽を摘まないよう気をつける
「思春期の混乱から脱しつつ、社会でどう生きるかを模索し出すのがこの時期」とは中里氏。ただ近年では将来について真剣に考えず、目の前の楽しさだけを追い求める若者が増加傾向に。
帰国後の子どもはというと海外でさまざまな経験を重ねたことから「自分はこれに興味がある」「これをしたい」といった考えを持つ場合が比較的多い。中里氏はその主体性の芽を摘まないことが大事だと話す。
「考えが非常識だと思える場合でも完全否定はNG。一理あると認めると、子どもは心を閉ざしませんし、自らの生き方を周りに流されずに考えられる人になるでしょう。進路の希望もできる限り否定せず、それを叶えられるよう、精神面でも金銭面でもできる範囲でサポートできたらいいと思います」(中里氏)。
お悩み相談室 子どものお悩みに対して保護者は何ができる?
【学校生活編】
Q. 前髪とかスカートの長さとか、校則が細かいし厳しすぎる。(ミャンマーのインターに通ったEさん)
A. 最近では細かい校則を減らす動きもあることを伝える
細かくて厳しい校則のある学校も存在しますが、近ごろは過度な校則は「ブラック校則」などと言われ、減らしたりなくしたりする動きも見られます。お子さんには皆がルールを守ることで今の日本の治安が外国よりも保たれている側面も、あわせて教えてあげてください。(後藤氏)
Q. 高1の時点で文系か理系かを決めなきゃいけなくて、悩んでいる。(スイスのインターに通ったNさん)
A. 将来に結びつく決断だから簡単には決めさせないで
大学は純粋に学問を学ぶ場である反面、文理の選択は、多くが将来の職業選択に結びつきます。自身の職業興味と職業適性はこの時点では一致していないかもしれません。そのため、保護者自身の経験談を話すとともに、学校の進路・キャリア相談センターも活用させてください。
ちなみに近ごろは日本でも、文系や理系にとらわれない文理複合型の学びを推進する私立高校や、リベラル・アーツ教育をする大学が増えてきています。帰国後の学校選択の時点でそのこともふまえ、お子さんに合った学校選択を。(中里氏)
【人間関係編】
Q. 英語力の保持ばかりを望む親。期待に応えたくても忙しくて無理。(アメリカの現地校に通ったTさん)
A. 最優先事項を英語力保持に置かないのがむしろ自然では…
日本の高校生は国際的にみても大学受験に備えた学習のボリュームが大きいです。また高校時代は、教科学習以外にも、美学・音楽・哲学などの分野にどんどん興味が深まります。部活動や男女交際もあるでしょう。どれだけ時間があっても足らない時期です。保護者は、かつてのご自分の体験をぜひ思い出してください。
多くの高校生にとって一番大事なことは、幅広い教養学習を通して生涯通用する見識を獲得し、部活動や文化祭などにとことん打ち込んで友情や挫折感を味わい、将来に備えることだと私は感じます。ですから、本人の優先順位として英語保持が上位にこなくてもまずは冷静に懐深くお子さんの考えを聞き、意思を尊重すべきでしょう。この際、「大学入学後、精神的・時間的に余裕が出た時点で再び英語学習に取り組むことで英語力を回復することだってできる」と親子で心に留めてください。ただし、本人の意思で英語保持教室に通ったり、インターネット教材などで英語保持に努めたりしている場合は、この限りではありません。(田浦氏)
【勉強・言葉編】
Q. 皆と違って海外大学進学を目指しているからか、特別視されて面倒。(シンガポールの現地校に通ったMさん)
A. これをきっかけに自分に合った生き方を考えさせる
特別視には居心地の悪さもありますが優位性もあり、自尊感情にも繋がりやすいという側面があります。このため、居心地悪さも認めてあげた上で、皆が注目していることは決して悪いものではないということをお子さんに伝えましょう。
その上で、今までの自分を振り返り、自身の強み・弱みや目指す方向性などの確認をして、自己理解を深めるよう助言してみてください。人とは違う自分に気づくことで、自分に合った生き方が見えてきます。(中里氏)
【その他の違和感編】
Q. 現地で過酷な実情を見てきたので、日本人の「平和ボケ」にあきれる。(インドのインターに通ったCさん)
A. 海外で見て来た実情について友だちに教えることを提案
日本は平和で安全な国とくくられがちですが、若者の自殺率、精神科の数が世界1位といった記録も持っており、必ずしも平和ボケの人ばかりではなく、むしろ精神的な悩みを抱える人が多いと考えられます。
それでもやはり世界的に見れば経済的、環境的に恵まれているのは事実。「友だちに海外で接した過酷な事実や現状についての情報を発信してみたら」と我が子にすすめてみてもいいかもしれません。(中里氏)
Q. 日本の友人は、自分の写った写真を勝手にSNSにUPするから困る。(オーストラリアの日本人学校に通ったRさん)
A. 友だちのことを責めずITの脅威を伝えるようすすめる
総務省の『公衆無線LAN利用時の脅威』(2014)に対する調査では、日本人のセキュリティレベルは調査対象の世界16か国のうち最下位でした。理由としては、世界的に安全な国であること、大陸から適度に離れた位置にあることなどが挙げられています。
このケースでは「友だちも危ないことを知らなかったんだね」という話を親子でして、お子さんには友だちを責めるのではなく、ITの脅威について伝えてみることをすすめてみてください。(中里氏)
Q. 日本人は指示待ちが好きで、自分から動かない人が多い。(香港のインターに通ったSさん)
A. 指示を待って動くことで心の安定を図る人もいると教えよう
目立つこと、人と違うことがよしとされにくい日本では、自主的に動かず、マニュアル通りに動くことで集団に同化し、心の安定を図る人が少なくないようです。お子さんにはそれを伝えつつ、「あなたはあなたらしく、自分の考えを活かす生き方をしていくのを応援するよ!」と伝えることをおすすめします。(中里氏)
お話を伺った方
海外子女教育振興財団 教育相談員
後藤 彰夫氏氏
千葉県と東京都の教員、ワルシャワ日本人学校の教諭を経て、東京都公立学校の教頭、副校長、校長に。2013年からは6年ほど本田技研工業株式会社で教育相談室長を務め、2019年より海外子女教育振興財団教育相談員。全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会の事務局長も務める。
言語学博士
田浦 秀幸氏
立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授として、非常に高いレベルで2言語を操ることのできる子どもたち対象のバイリンガリティー(言語獲得・保持・喪失)などを研究している。帰国生を歓迎する学校等で英語教諭を計15年以上務めた経験も。著書には『科学的トレーニングで英語力は伸ばせる!』(マイナビ出版)がある。
臨床心理士
中里 文子氏
AGカウンセリングオフィス代表、特定非営利活動法人こころんプロジェクト理事長。心理カウンセリングや教育相談、児童相談所での虐待通報・子育て相談、駐在員の家族のメール相談などを行う。「気が重いなあ」「不安だな」と心の病気の小さな芽が出始めたときのカウンセリングを重要視する。
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