毎日の様子から気持ちを探ろう小学校高学年
小学校中学年まではあんなにわかりやすかった我が子の心が急に読みづらくなる時期。ささいな変化にも気づけるよう、毎日しっかりと我が子の様子を見守る必要が出てきます。
「親子で楽しむ時間」を「内心を汲みとる時間」に
小学校高学年は思春期への移行時期で、「男女の性差」「性への芽生え」が顕著に。異性の前、大人の前など、相手によって態度を変えて臨機応変に対応するのが上手くなる反面、内心が読みづらくなる時期だと中里氏は言う。その例として、帰国後の子どものアンケートでは「帰国後の登校初日、親が学校に一緒に来た。気持ちは分かるが恥ずかしかった」「親よりも友人のほうが帰国後の悩みを話しやすい」といった声も。
学校生活では仲間作りと仲間割れが顕著に。
「我が子が疎外感や孤立感で苦しんでいないかを注意深く見守る必要があります。あらたまって話をするというよりも、親子で一緒にスポーツやボードゲームなどをする中で、友だち関係について聞くタイミングを作りましょう」(中里氏)。
お悩み相談室 子どものお悩みに対して保護者は何ができる?
【学校生活編】
Q. 式や会の練習を長時間、何回もやる。同じことの繰り返しでイライラ。(マレーシアのインターに通ったYさん)
A. 「上手になった姿を見るのが楽しみ」と伝えて、やる気を喚起
集団としての活動を通して、個々によりよい学校生活を築こうとする意識を培うのが、長い時間をかける理由です。お子さんには、「でも、それだけたくさん練習をしたら、きっと上手になるだろうね。あなたの上手になったところを見られるのが楽しみ」と伝えて、やる気を喚起してみてください。『日体大 集団行動』で検索して、親子で素晴らしい演技の動画(YouTube)をご覧いただくのもいいと思います。(後藤氏)
Q. 長期休暇が短いだけじゃなくて、宿題も多すぎる。休みじゃない!(チリの日本人学校に通ったSさん)
A. 協力してあげられることはないか子どもに聞いてみる
学校教育に教育のすべてをかけてきたのが、明治以来の日本と言えます。休みが短めで宿題も多いのはこれが大きな理由です。帰国後の子どもには、これはこれとして受け入れるよう伝えるしかないでしょう。そして宿題に取り組むスケジュールを一緒に立てるなど、保護者ができることを一緒にしてあげてください。(後藤氏)
【人間関係編】
Q. 海外では先生と生徒はフランクなつき合いだった。日本では違う。(アメリカの現地校に通ったUさん)
A. 敬いながらも本音で話せる関係を築いていく意識改革を手助け
日本には目上を敬う儒教の教えが深く根づいていることから、先生と生徒の間には明確な上下関係があるとされるのが一般的。しかも敬語を介した間柄になるので、その関係性も固くなりがちです。しかしだからといって、日本の先生も生徒と本音で話せない関係を望んでいるわけではありません。日本の先生たちが話しやすい環境作りを目指していることも、お子さんに伝えてあげるといいですね。それでも「壁」を感じるという場合は、学校のスクールカウンセラーを利用させてみるのも一案です。
そして、忘れさせてはならないのは、先生からは勉強だけでなく、考え方や生き方などさまざまなことを学ぶため、もともと海外でも先生と生徒は友だちのように対等な関係ではなかったという事実です。(中里氏)
Q. 日本に帰ってから、親が自分を心配しすぎて〝重い〟。(シンガポールのインターに通ったAさん)
A. 堅苦しい場ではなく楽しい場で気持ちを聞くようにする
高学年になると、子どもはこれまでの「外言(他人に話す言葉)」中心から一転、「内言(心の中で考えるための言葉)」を多く使うようになります。そのため、この年齢の子どもは黙っていてもちゃんと考えていることが多いのです。とはいえ、子どもから話してくるのをひたすら待つのでは保護者のほうがつらくなるため、子どもが考えを気軽に言語化できる環境を作ることをおすすめします。例えば週末の夜にボードゲーム大会をするなど、話をせざるを得ない楽しい時間を共有する中で子どもの本音は拾えます。また、手相占いのように、対象(手のひら)を挟むことでも、感情は吐き出しやすくなります。(中里氏)
【勉強・言葉編】
Q. 努力はしているが、英語で話す力が確実に下がっている。落ち込む。(イギリスの現地校とインターに通ったMさん)
A. 大切なことの順位づけをさせて英語の順位が高いならその環境作りを
3~4年間、英語圏で現地校に通った後で帰国した子どもたちを調査したところ、英語を話すスピードの低下が帰国後6~12か月目に認められました。日本の学校で英文法や英単語、ライティングを学習して伸びる部分もあるのですが、英語圏にいた子どもはどうしても話すスピードが低下してしまうのです。これは家の外で日本語ばかりの世界に戻り、英語を使う時間が圧倒的に減ったのですから、やむを得ないことです。
言語力保持のためには、その言語に密に接している必要があります。インプット(読み聞き)とアウトプット(書く話す)を毎日3時間ほど行うと、保持できるとの研究報告があります。しかし国語の力をつけ、サッカーの練習をし、毎日の宿題をして、中学受験の勉強までするとなると、英語力保持のために3時間を捻出するのは非常に困難でしょう。
保護者にできるのは「今の自分にとって何が一番大切か」を考えさせて、大切なことに優先順位をつけさせ、優先順位が上位のことからさせること。我が子が「英語で話す力」を一番に考えるようなら、インプットとアウトプットを毎日3時間ほどできるような進路を選択させ、その進路希望を叶えるための努力を始めさせるといいと思います。(田浦氏)
【その他の違和感編】
Q. みんなが流行りに乗って、同じような服装や髪型。つまらない。(アメリカの現地校に通ったAさん)
A. 一見そう見えても個性派は結構いる!多くの人と話をさせて体感させよう
他人の目を気にして恥をかくことに敏感になるのもこの年齢から。しかも、協調性を重んじる日本の教育で育った人間であればあるほど、集団の中で自分としての個性を出そうとせず、無理にでも集団に同化させることで心の安定を図ろうとするもの。皆が「流行りに乗る(乗るかのように振る舞う)」のもそのためかもしれません。
しかしながら同じように見えても、本音で話をしていくと、自分らしさを主張している人が実は多くいます。その中で気の合う仲間を見つけ、一緒に共通の趣味などについて話をしてみると新たな発見があるかもしれません。このことをぜひお子さんに伝えてあげてほしいですね。(中里氏)
お話をお伺いした方
海外子女教育振興財団 教育相談員
後藤 彰夫氏氏
千葉県と東京都の教員、ワルシャワ日本人学校の教諭を経て、東京都公立学校の教頭、副校長、校長に。2013年からは6年ほど本田技研工業株式会社で教育相談室長を務め、2019年より海外子女教育振興財団教育相談員。全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会の事務局長も務める。
言語学博士
田浦 秀幸氏
立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授として、非常に高いレベルで2言語を操ることのできる子どもたち対象のバイリンガリティー(言語獲得・保持・喪失)などを研究している。帰国生を歓迎する学校等で英語教諭を計15年以上務めた経験も。著書には『科学的トレーニングで英語力は伸ばせる!』(マイナビ出版)がある。
臨床心理士
中里 文子氏
AGカウンセリングオフィス代表、特定非営利活動法人こころんプロジェクト理事長。心理カウンセリングや教育相談、児童相談所での虐待通報・子育て相談、駐在員の家族のメール相談などを行う。「気が重いなあ」「不安だな」と心の病気の小さな芽が出始めたときのカウンセリングを重要視する。
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