軽はずみな行動に要注意の小学校中学年
好奇心が育つ、ギャング・エイジ期。「楽しそうだからやっちゃえ」「みんながしているんだから大丈夫だろう」といった我が子の行動には、目を光らせる必要がありそうです。
周囲からの軽はずみなからかいに注意
発達心理学で「ギャング・エイジ」と呼ばれる小学校中学年は今までの「自分中心の世界」から「皆の中の自分」に関心が移り、周囲との仲間意識が強まる年頃。「子どもは仲間といるとその場の雰囲気で軽率な行動をしがちです。新しいものや違いを茶化す傾向もあり、帰国後の子どもはターゲットになりやすいため注意が必要です」
このことは「英語がうまいだけで外国人扱いされる」「海外と同じように異性と遊ぶと変な目で見られる」といった帰国後の子どものアンケート結果にも散見される。「ただし悪意からではない場合も多いもの。それでも我が子が苦しんでいるようなら、指導という意味での教員の介入は必要です。保護者は遠慮せず担任に相談を」(中里氏)。
お悩み相談室 子どものお悩みに対して保護者は何ができる?
【学校生活編】
Q. 日本は給食があるから、嫌いなものでも食べなくちゃいけない。(インドネシアの日本人学校に通ったKさん)
A. 食わず嫌いなら口をつけることを提案し無理なら先生に話して免除してもらう
まずは嫌いなものを食べる苦痛に「わかるよ、イヤだよね」と共感してあげましょう。そして、食わず嫌いであれば、最初は勇気がいるけれどちょっと我慢して食べてみたことで「嫌い」を克服した例を紹介し、ひと口食べてみることを提案してみてもいいと思います。
それ以外は、「全部嫌い」といった極端なケースを除いて、嫌いなものを無理して食べることはないと考えます。給食を理由に学校嫌いになるのは本末転倒ですから。このため、給食で嫌いなものに遭遇したときは、自分から先生に伝えるよう促しましょう。「すべて食べなくてはいけない」と決まっているケースなどでは、保護者からきちんと先生に話をして、了解を得るようにしてください。(後藤氏)
Q. 日本の学校には、クリスマスなどの盛大な行事がなくてつまらない。(アメリカとドイツの現地校に通ったMさん)
A. 誕生会など宗教に関係しない行事を企画してみることを提案する
まずは宗教に関係するクリスマスなどのイベントを盛大に行う日本の学校はかなり限られている事実を伝えます。その上で、担任と相談して、誕生会などの宗教に関係しない行事を企画して創りあげてみることを提案してみてはいかがでしょうか。
また、学校外で楽しめる日本の行事(宗教関係を含む)に目を向けさせるのもいいと思います。盆踊りや神社のお祭りなどは新鮮で、想像以上に楽しめるかもしれません。(後藤氏)
【人間関係編】
Q. 学校にあまり行きたくないのに、親が行かせようとする。(アメリカの現地校に通ったYさん)
A. 自分の意思で「行く!」となるような選択肢を3つほど用意
子どもが学校に行きたくないという場合、保護者は行きたくない気持ちを受け止めた上で、選択肢を3つほど提示して子どもに選択してもらうようにします。例えば、①午前中だけ頑張って授業を受ける、②朝のホームルームに出て、皆に挨拶だけして帰る、③お母さんと一緒に学校へ行き、先生に挨拶だけして帰る、といったように。そして①を選ぶなら、ゲームをしていい時間を30分延長する、②なら15分延長、③なら5分延長というように、それぞれの選択の頑張り具合に応じたトークン(ご褒美)をつけます。この方法であれば、いずれにしても自分の選択(意思)で「学校へ行く」ことになります。「学校に行かなくていいよ」という選択は一見優しそうに見えますが、行かない期間が長いほど、どんどん行きづらくなるもの。息苦しい状態を招く判断が優しいとは言えないでしょう。
あわせて、先生に他の友だちからお誘いの声をかけてもらえるようお願いしておくことが、学校になじめる重要なきっかけ作りとなります。(中里氏)
【勉強・言葉編】
Q. 会話に英単語が混じるので、「調子に乗っている」と思われそう。(アメリカの現地校に通ったRさん)
A. 単語が英語になる必然性を理解させて友だちへの事前告知を促す
日本語と英語を両方使える人は、語彙がそのぶん増えることになり、それぞれの単語が持つニュアンスの微妙な違いをしゅん別することができます。そのため、会話の中で自分の言わんとすることを一番伝えられる単語を両言語から選び使用することは、ごく自然な行為と言えるでしょう。まずはこのことをお子さんに伝えます。
周囲の反応が気になるようなら「日本語で分からない単語は英語で言っちゃうかもしれない」とあらかじめ友だちに伝えるよう促してもいいでしょう。お子さんが英語で言ったその単語を日本語では何と言うか、友だちが楽しんでくれるかも。(田浦氏)
Q. 歴史や地理、古典の授業がちんぷんかんぷんで困っている。(香港のインターに通ったYさん)
A. 各教科の〝学び方〟の特徴を教えてまずは苦手意識を取り除く
歴史や地理は小1・2の国語力(読解力、語彙力など)をベースにしているので、そこが抜けていると、難しく感じてしまうかもしれません。ですが、国語力がついてくれば、あとは単なる知識を吸収すればいいだけで、恐れるに足りないことを伝えてください。知識のつけ方の第一歩は拒絶反応を取り除くこと。教科書の1ページから順を追って学ばせるのではなく、お子さんが興味を持ちそうなものから取り組ませるのがポイントです。例えば住んでいる地域の歴史や地理から始めるのはどうでしょう。
古典はイギリスや中国などにもありますが、それぞれ現代英語や現代中国語ともまったく異なります。日本語の古典も同様で、お子さんには「外国語」だと捉えさせるべきでしょう。日本語ではなく外国語だと思って勉強すると、最初はできなくて当たり前と思えて、苦手意識が薄れるはずです。(田浦氏)
【その他の違和感編】
Q. あぐらをかくのがマナー違反など変な決まりごとに慣れない。(イギリスの現地校に通ったYさん)
A. 「変だな」を「なぜかな?」に変換して考えさせてみる
日本だけでなく、それぞれの国にはその国のマナーがあり、それは歴史や生活様式と密接に関わっています。例えば、日本で女性があぐらをかくのはなぜNGか。それは昔の女性が着物を着ていたことが理由のひとつだそうです。このように、お子さんには「変だな」と思う気持ちを「なぜかな?」に変換して考えてさせてみてください。きっと日本のいいところにもいろいろと気づけるはずです。(中里氏)
お話を伺った方
海外子女教育振興財団 教育相談員
後藤 彰夫氏氏
千葉県と東京都の教員、ワルシャワ日本人学校の教諭を経て、東京都公立学校の教頭、副校長、校長に。2013年からは6年ほど本田技研工業株式会社で教育相談室長を務め、2019年より海外子女教育振興財団教育相談員。全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会の事務局長も務める。
言語学博士
田浦 秀幸氏
立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授として、非常に高いレベルで2言語を操ることのできる子どもたち対象のバイリンガリティー(言語獲得・保持・喪失)などを研究している。帰国生を歓迎する学校等で英語教諭を計15年以上務めた経験も。著書には『科学的トレーニングで英語力は伸ばせる!』(マイナビ出版)がある。
臨床心理士
中里 文子氏
AGカウンセリングオフィス代表、特定非営利活動法人こころんプロジェクト理事長。心理カウンセリングや教育相談、児童相談所での虐待通報・子育て相談、駐在員の家族のメール相談などを行う。「気が重いなあ」「不安だな」と心の病気の小さな芽が出始めたときのカウンセリングを重要視する。
【関連記事】