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帰国後の子ども年齢別ケアの手引き③ ~自己肯定感を高めてあげたい小学校低学年~

自己肯定感を高めてあげたい小学校低学年

まだまだ幼児性の残るこの時期は、不思議なことにピュアに驚いたり、好きなことだけ繰り返したり…。そんな様子に細かく共感し、褒めることで、「自分っていいね!」という自己肯定感を高めてあげるのが正解です。

自己肯定感を高めてあげたい小学校低学年

些細なことにもよく耳を傾けて褒めよう

思考や行動面においてまだ幼児性が強い小学校低学年。臨床心理士の中里文子氏は、この時期に何より大事なのは、自己肯定感を高める導きだと話す。

「帰国後の保護者は英語力など海外で得たものの維持に関心を寄せがちですが、もっと大事なのは、自己肯定感を高めてあげること。日本では協調性を求められるため、海外で暮らした子どもは“個”が認められにくいことで自己肯定感が低くなってしまう可能性もあるからです」(中里氏)

自己肯定感を低下させないためには、どんな小さな発見や考えにも「なるほど」と耳を傾け、褒めること。「褒める際の着眼点は、集団生活に適応しようと努力を続ける姿勢や、日本の面白さを発見しようとする姿勢など、無数にあるはずです」(中里氏)。

お悩み相談室 子どものお悩みに対して保護者は何ができる?

【学校生活編】

Q. 学校の行き帰りを子どもだけでするのが不安。(アメリカの現地校に通ったUさん)

A. 最初は一緒に登下校して徐々にその距離を短くしていけばOK

集団登校に象徴されるように、日本の学校には、「実際に学校にいる時間だけではなく、登下校の間も学校生活の一部」という考え方があります。ですが、学校の了解を得て親御さんが一緒に登下校しているお子さんも少数ながら存在します。お子さんがこういった悩みを持つ場合には、日本の生活に不慣れな特殊ケースとして学校にかけあい、慣れるまで親子で登下校することを了承してもらうのがいいでしょう。

この際、お子さんには「自分もあなたと一緒に行きたい」という気持ちを伝え、その上で「自分で自分のことを守れる強い子になってほしい」という理由で、徐々につき添う距離を短くすることを提案します。段階を踏んで安心感を与えながらであれば、子どもの心の準備も整いやすいはずです。(後藤氏)

Q. 「全校集会」「全校朝会」のような”会”が多くて疲れる。(アメリカの現地校に通ったKさん)

A. ”会”の意味を分かりやすく伝えて適度な息抜きの方法を教える

まずは、「たくさんの仲間とひとつの目標に向かって行動する中で、個々を高めて成長させる」という、日本の学校が会を推奨する理由を子どもに分かりやすく説明します。その上で、親子で話して会の重要度に順位をつけさせましょう。順位の低いものに参加する際は「人間なのですべてに全力投球するのは無理だということ」や「軽く肩を抜く会があってもいいこと」を伝えてみては。(後藤氏)

【人間関係編】

Q. 仲よしグループができているから、同じ子とばかり遊んでいて寂しい。(シンガポールの日本人学校に通ったMさん)

A. 低学年のグループはまとまりが強くはないので気楽に構えさせる

低学年でのグループは、その時々の気分や興味関心により、すぐに離れたりくっついたりとまとまりはそう強くないので、まずは「来週には他の子と遊べるかもね」と気楽に構えさせるのが大事。また、先生からの「一緒に仲よく」という一言が効力を発揮することもままあります。お子さんが孤立しがちなら、先生に声がけをお願いしてみるのもひとつの方法です。(中里氏)

Q. 友だちが気をつかった返事をする。本当はどう思ってるの?(アメリカの現地校に通ったSさん)

A. 言語や感情表出を相手に促す質問のしかたを教えてあげよう

本音をオブラートに包むことを日本では「奥ゆかしい」と、いい意味に捉える場合も。海外で自分の考えを臆せず口に出してきたお子さんが戸惑ってしまうのは当然かもしれません。保護者の対処法としては、「○○ちゃんは恥ずかしがり屋なのかもね。『私はこれが好きだけど、○○ちゃんはどれがいい?』ってあなたから聞いてみたらどうかな?」というように、言語や感情表出を相手に促す質問を投げかけるアイデアを教えてあげることです。自分の意見を述べることで、相手もそれに答えなければならない状況を作らせるのがコツです。(中里氏)

【勉強・言葉編】

Q. 自分の日本語の発音が外国人っぽいと知り、あまり話をしたくない。(アメリカの現地校に通ったAさん)

A. 2言語使えることを褒めつつ音読の宿題では保護者が手本を示す

これは日本国内の移動にも置き換えられ、例えば関東から関西に子どもが転校すると、当初は関東弁がからかいの対象になりやすい状況がしばしば発生しています。

母語の基盤は、5歳までにできあがります。その期間に英語に接する時間が日本語より圧倒的に多いと、日本語に英語なまりが出てしまうのは当然です。このケースでは、日本語の発音が完璧でない事実よりも、日英2言語を使える事実のほうに目を向けさせ、自信を持つように励ます必要があるでしょう。

また小学校低学年では国語の音読が宿題として出ますので、保護者が手本を示し、英語なまりが少しずつ消えるようにサポートしてあげてください。その際、できなかった部分を指摘するのではなく、上手くなった部分をしっかり褒めるのがポイントです。(田浦氏)

Q. ただ会話を楽しみたいだけなのに、親が何度も日本語を直してくる。(アメリカの現地校に通ったYさん)

A. この年齢の日本語は発展途上だという事実をふまえ、あせらず見守る

ずっと日本で暮らしてきた子どもであっても、小学校低学年時点では文法・語彙ともにまだまだ完璧ではないということをふまえて、保護者はお子さんとの会話を純粋に楽しむべきでしょう。

間違いや誤りが気になっても指摘は極力しないようにし、保護者自身が日常的に正しい発音や用法を使って自然と気づかせてあげること。これが子どもにストレスをかけず、上手に日本語を習得させるコツです。(田浦氏)

【その他の違和感編】

Q. よく遊ぶ友だち親子が、高いものをすぐに買うのでついていけない。(中国の現地校に通ったMさん)

A. 流されずに「我が家の考え」を通すことで得られるメリットがある

これはお金の大切さや使い方を教えるいいチャンスです。日本は国際的にみると貧富の差が小さく欲しいものが手に入りやすい国かもしれませんが、「今日は特別な日ではないよね?」「本当にほしいならコツコツ貯めてみて」と、流されずに我が家の考えを通しましょう。今後の子育てに一貫性を持たせられますし、子どもの適切な金銭感覚の形成もできます。(中里氏)

お話を伺った方

後藤 彰夫氏

海外子女教育振興財団 教育相談員
後藤 彰夫氏氏

千葉県と東京都の教員、ワルシャワ日本人学校の教諭を経て、東京都公立学校の教頭、副校長、校長に。2013年からは6年ほど本田技研工業株式会社で教育相談室長を務め、2019年より海外子女教育振興財団教育相談員。全国海外子女教育・国際理解教育研究協議会の事務局長も務める。

https://www.joes.or.jp

田浦 秀幸氏

言語学博士
田浦 秀幸氏

立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授として、非常に高いレベルで2言語を操ることのできる子どもたち対象のバイリンガリティー(言語獲得・保持・喪失)などを研究している。帰国生を歓迎する学校等で英語教諭を計15年以上務めた経験も。著書には『科学的トレーニングで英語力は伸ばせる!』(マイナビ出版)がある。

中里 文子氏

臨床心理士
中里 文子氏

AGカウンセリングオフィス代表、特定非営利活動法人こころんプロジェクト理事長。心理カウンセリングや教育相談、児童相談所での虐待通報・子育て相談、駐在員の家族のメール相談などを行う。「気が重いなあ」「不安だな」と心の病気の小さな芽が出始めたときのカウンセリングを重要視する。

https://agc-office.com

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