新型ウイルス感染症(COVID-19)対策のため日本全国で緊急事態宣言が出され、休園や休校、外出自粛が続き、子どもたちが自宅で過ごす時間が増えている。同時に、オンライン授業やオンライン学習アプリ等を利用したり、ゲームや動画を楽しんだりと、子どもたちがデジタルデバイス(パソコン、スマートフォン、タブレット端末、携帯型ゲーム機器など)を見る時間も増えていると考えられる。
そうなると気になるのが、目への影響だ。そもそも子どもたちの視力は悪化し続けていて、文部科学省の「2019年度(令和元年度)学校保健統計調査報告書」によると、裸眼視力1.0未満の子どもの割合は、小学校、中学校、高校で過去最多を記録した。小学生を例に挙げると、1979年度(昭和54年)は17.91%、2008年度(平成20年)は28.93%、2019年度は34.57%と増加している。そこへ追い打ちをかけるのがデジタルデバイス使用の増加というわけだ。
こうした中、子どもの目の健康を守るために心がけるべきことは何か、眼科医の平松類(ひらまつ・るい)先生に話を聞いた。
近視、疲れ目、ドライアイ、斜視に注意
――デジタルデバイスを見る時間が増えることにより、子どもたちの目にどのような問題が起こると考えられますか?
平松:デジタルデバイスが目に病気を引き起こすという確実なエビデンス(証拠・根拠)は少ないです。なぜなら、人類の歴史においてデジタルデバイスを使ってきた時間は短いからです。ただし、画面を見すぎる問題点としてわかっていることはいくつかあります。
- 距離が近くなり近視が進む
スマートフォンを見るときは本などを見るときよりも10cmほど目を近づけてしまうことがわかっています。そのため近視になりやすいとされています。 - 目が乾く
人間は1分間に30回程度まばたきしますが、デジタルデバイスを見ていると7~8回程度に減るため、目の表面が乾いてドライアイになりやすくなります。すると、目が疲れやすくなったり異物感を感じたります。 - 斜視になるリスクも
手元のゲームやスマートフォンなど近い距離を見ようとすると、目を寄せてしまいます。その状態が長時間になると、斜視になるリスクが上がります。
「画面から目を離しなさい」と言うだだけでなく指標を与える
――休校下においてオンラインやパソコンを使った学習が普及するのはよいことです。また、外遊びをする時間が減っている子どもたちにとってゲームなどを楽しむ時間も少しは必要です。デジタルデバイスと付き合いながらも子どもの目を守るためにはどんな工夫をしたらよいでしょうか。
平松:ご家庭できることを5つ紹介しましょう。
- 画面が大きいものにする
画面が小さければ目を近づけざるをえませんが、画面が大きければ距離を離すことができます。ですから、スマートフォンよりタブレット、タブレットよりテレビがよいといえます。できるだけ大きい画面で視聴できるように環境を整えてあげるとよいでしょう。 - 距離を離す基準を示す
「画面から離れて見なさい」とお子さんに指示をしてくださる親御さんがいますが、もう一歩進めてください。例えば、タブレットなら目との距離は30㎝くらい離してほしいのですが、それを子どもに言っても「離れてるもん」と言い返されて終わりです。線を引く、紐で距離を示すなど、具体的な指標で示すことが重要です。 - 光の量を調節する
画面からの明るい光やブルーライトを見すぎると、疲れ目やドライアイを引き起こしやすくなります。光量を少し落としたり、ブルーライトカットの設定がある機器はオンにしたり、ブルーライトをカットするフィルムを画面に貼るなどするとよいでしょう。 - よい姿勢を保てるようにする
ノートに書くときにも言えることですが、タブレットで調べものをするときに子どもは前傾姿勢をとりがちです。すると、画面と目の距離が近づきすぎてしまうので、前かがみにならなくても見やすいように机やイスの高さを調節してあげましょう。また、テレビや動画を寝転がって見るのもやめましょう。画面を下から見上げると目を大きく見開くことになるため、目が乾いてダメージを受けやすくなります。 - 資料をプリントアウトする
パソコンの授業の場合、資料を画面で見るよりも、印刷したものを見た方が目に優しく、効率的なこともあります。プリンターを家に置くなどして、お子さんが資料をプリントアウトできるようにするとよいでしょう。
見るだけの視力回復法も!
――平松先生は著書『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』で「ガボール・パッチ」という脳を使った視力回復法を紹介されています。これは近視にも効果的だそうですが、子どもでもできますか?
平松:人は、眼球でとらえた情報を脳で処理することで見えたものを認識しています。「ガボール・パッチ」は、特殊な白黒の縞模様を見ることで脳の視覚野を刺激し、視力を向上させる方法です。ぼやけた縞模様を見ることで、脳の「画像のぼやけを補正する力」を鍛え、見え方を改善するのです。やり方は簡単で、多くの縞模様がある中から好きな縞模様を選び、それと同じ縞模様を全部探し出します(上の画像参照)。カリフォルニア大学などで検証され、平均的に8割の人が視力回復し、0.2程度改善するとされています。安全な方法で、近視の人も老眼の人も、年齢を問わずにできるのがよい点です。
(※編集部注:平松先生は海外で注目されていた「ガボール・パッチ」を日本にいち早く広め、その際にアプリで公開されていた縞模様の画面を目への負担を考慮して紙のシートに作り替えた。これを「ガボール・アイ」と呼んでいる)
――子どもが行う際の注意点やコツはありますか?
平松:お子さんの場合の注意点は、目の病気があるかどうかを確認することです。たとえば視力が0.8だとしても実は病気が原因で視力が下がっているケースもあるので、眼科でチェックしてもらってください。特に目の病気がない場合のみ、「ガボール・パッチ」を試していただいたほうがよいです。子どもへの効果に関するエビデンスは少ないものの、私の経験上では効果があるといえます。コツは、ひとつひとつの図形を見ること。早く探し終わればよいとかたくさんやればよいとかいうことではありません。メガネをかけているお子さんは、かけたままでも外してもどちらでも大丈夫です。また、見ている最中にクラクラするなどの異変を感じた場合は中止してください。楽しみながら行うことが大切なので、親御さんが無理やりやらせるのではなく、お子さんが好きで取り組めるようなら続けてみてください。
お話を伺った方
平松類先生 眼科専門医/医学博士
二本松眼科病院(東京都江戸川区)に勤務。緑内障などの手術実績が豊富。『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』(SBクリエイティブ)、『改訂新版 緑内障の最新治療 ーこれで失明は防げる―』(時事通信社)など著書多数。
参考文献
『1日3分見るだけでぐんぐん目がよくなる! ガボール・アイ』平松類・著(SBクリエイティブ)
(取材・文/中山恵子)