日本への帰国を前提とした海外での暮らしの中で、子どもの教育に疑問や悩みを持っている保護者も少なくないようです。そこで、海外に住む保護者からの様々な質問に、帰国子女対象の英語塾「帰国子女アカデミー」の英語ネイティブの先生が答えてくれました。
Q. アメリカの幼稚園に通う5歳の娘がいます。娘は日本語よりも英語のほうが得意です。来年、日本に帰る予定なのですが、帰ってしばらくは日本語の力を伸ばすことに専念させたほうがいいですよね?
A. いいえ、英語の勉強を休むべきではありません。真に2か国語を操れる能力(バイリンガリズム)は、保護者が子どもに与えられる最高の贈り物の1つだからです。
幼少期に身に付けた英語力ほど失いやすい
海外から日本に帰国した保護者の多くは「子どもの日本語のレベルの低さ」を心配し、「まずは日本語のレベルが同年齢の子たちに追いつくまで、英語から一旦距離を置くべきでは?」と悩んでいらっしゃいます。
しかし、英語の勉強は決して休むべきではありません。なぜなら、英語の力は子どもの年齢が低ければ低いほど基礎力が弱く、こうした帰国後の“休憩”によって大きく失われてしまうからです。
流ちょうに話すように思えるかもしれませんが、たとえば5歳の子どもが理解している英語力は弱く、消えやすいものなのです。たった数カ月、英語から離れるだけで、自然なスピードで話すことが出来なくなり、簡単な単語も忘れてしまい、致命的なこととして、英語に対する面白さや自信さえ失ってしまうのです。
日本に住んでいれば、日本語は身に付けやすい
一方、帰国後の日本語に対しては、これとは逆の現象が起こります。日本に戻った年齢が低ければ低いほど、生活している場所で日常的に使われている言語、つまり日本語を吸収しやすくなります。
ですので、小さなお子さんをお持ちの保護者は、帰国後に日本語力の伸びを心配する必要は全くありません。日本の小学校に入学させる予定があるのなら、なおさらです。そのため、幼い年齢であれば、放課後に英語に焦点を当てて学習すれば、きっとバイリンガリズムを身に付けることが出来るでしょう。
しかし、幼児期を過ぎた子どもにとって、日本語、特に漢字の習得は、たやすいことではありません。そのため、日本語の読み書きを同年齢レベルに引き上げるため、英語ではなく日本語に学習の焦点をある程度当てる必要があるでしょう。とはいえ「英語を完全に無視しろ」という意味ではもちろんありません。
バイリンガリズムは保護者が子にあげられるプレゼント
子どもに「真に2カ国語を操れる能力(=バイリンガリズム)」を持たせるかどうかは、「子どもに将来どのようになってほしいか」という各ご家庭の考え方によって変わってくるでしょう。ですが、私の個人的な意見は、バイリンガリズムは保護者が子どもに与えられる“最高の贈り物のひとつ”だと思います。
「バイリンガリズムは学校での勉強や社会人になって仕事上で利益をもたらすだけでなく、日常的な知識をより効果的に吸収し、社会性を育み、しいては健康にもよい」。こうした研究結果も、近年次々と発表されています(下の「バイリンガル教育の効果」をご参照)。
ですので、海外在住によって子どもが既にバイリンガリズムを持っているのなら、日本に帰ったからといって、わざわざなくす危険性のあることをすべきではありません。帰国後、英語の勉強をおろそかにする期間を長くすればするほど、子どもの英語力を危険にさらすことになるのです。実際、今現在、私が校長を務める帰国子女向けの英語塾では、下位のクラスにいる帰国生の保護者の多くが、帰国後、「しばらくは英語から距離を置かせることが一番良いだろう」と考えたことのある方々です。
これから言うことをどうか信じてください。4歳の頃、私は完璧な日英バイリンガルでした。日本に住み、日本語も英語も流ちょうに話せました。アメリカに戻って英語だけを話すようになっても、私はいつか日本語を思い出すだろうと信じていました。ですので、アメリカで日本語を教えてもらう必要はないと考えていました。しかし、思ったようにはいきませんでした。
42年後の現在、私は未だに、日本語の一語一語を逐一学ぶ必要があり、“で”や“に”の用法に悩まされ、私の子どもたちは私が日本語を話すと、くすくすと笑います。
皆さん、次のことを忘れないでください。「言語を学ぶことは難しい。そして忘れることは容易」です。ですが、もしあなたの子どもがすでにバイリンガルであるのなら、彼らへの贈り物を大切にし、さらに伸ばすことへの努力を、どうか惜しまないでください。
幼少期に英語圏から帰国した子どもに英語力をキープさせる方法
- 英語での読書を一日に15分間ほど(5分は音読、10分は黙読)行わせる
- 日記を毎日少しずつ書くよう促す
- 英語でテレビを観させる
- ビデオ通話などで英語を話す友だちと会話をする機会を作る
- 週末などに、英語の話せる子どもたちが通う学校で数時間を過ごさせる
- 小学校に上がる年齢になるまで、インターナショナルプレイグランドや幼稚園に入園させる
バイリンガル教育の効果
「バイリンガリズムは、学校での勉強や社会人になって仕事上で利益をもたらすだけでなく、日常的な知識をより効果的に吸収し、社会性を育み、しいては健康にもよい」という研究結果が近年次々と発表されています。
お話を伺った方
チャールズ ・エム・ カヌーセン Charles M. Knudsen氏 帰国生向け英語塾「帰国子女アカデミー」校長
同塾創設者。国内有数の中高一貫校で英語アドバンストプログラムを立ち上げるなど、日本での帰国生教育は15年に渡る。英語学習テキスト『Stranger than Fiction』(南雲堂)などテキストや小説の執筆も。
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