入学しない大学への入学金、不要になるか!?
入学金の二重払いにより、教育機会の不平等が発生
国公立大学など合格発表が遅い大学が第一希望の場合、先行の私立大学の入学金支払期日が先に来てしまい、第一志望が受かった場合には二重払いとなっても、致し方なく入学金を払っているケースは非常に多いでしょう。誰にとってもありがたくない事柄ですが、余分な入学金を払う余裕のない家庭の受験生は、入学金支払い期日の早い大学を受験することを諦めるしかないなど選択肢が狭まり、教育機会の平等が保たれていません。
その不平等に2021年春、異を唱えたのが現役大学生が結成した「入学金納入時期延長を求める有志の会」です。弊サイトでも当時、会の活動を紹介しました。
有志の会はメンバーの就職活動やその後の就職などのため、2021年秋から3年間活動を休止し、2024年6月から団体名を「入学金調査プロジェクト」と改称して活動を再開。今回は活動再開後の彼らの動きを追います。
7人に1人が入学金問題で受けたかった大学の受験を諦めている
活動再開後、まずはクラウドファンディングで調査資金を募り、「大学への入学金の二重払いに関する実態調査」(※)を実施。調査結果を今年1月22日に文部科学省で記者会見しました。それによると、現役の大学生の約9割が入学金の二重払いを問題視していて、約4割が入学金を二重払いした経験があることが分かりました。
「出願数・入試方式を決めるときに考慮したこと」の質問に対し、「受験にかかる費用」と答えた人(37.8%)にその対処として「実際に行ったこと」を聞くと、「入学するかわからない段階で入学金を払う可能性のある入試方法を選択肢から外した」との回答が35.9%ありました。37.8%のうちの35.9%、つまり全体の13.6%(約7人に1人)が入学金問題により受けたかった大学の受験を諦めたことになります。
※「大学への入学金二重払いに関する実態調査」概要
調査期間:2024年10月30日~11月2日
対象:3年以内に受験をした大学生
回答数:1039名
調査方法:インターネット


文部科学省が私立大学に入学金負担軽減対応を通知
調査結果を引っ提げ、今年2月5日、超党派の国会議員で構成されている「子どもの貧困対策推進議員連盟」の「教育格差について考えるワーキングチーム」に、入学金の二重払いによる受験機会格差解消のための要望を提出。さらに6月20日、武部文部科学副大臣にも同様の要望書を提出しました。
その甲斐あって今年6月26日、文部科学省から全国の私立大学に「入学しない学生の入学金負担を軽減する方策を講じること」などを盛り込んだ通知が出されました。
主に5人で活動している入学金調査プロジェクトの面々は、各大学の募集要項がほぼ出揃った11月3日、都内にある私立大学120校(閉学予定校と大学院大学を除外)を対象に、募集要項をひとつひとつ確認し、入学金などに関する負担軽減策の導入状況について調査。3日時点で募集要項の出ていなかった大学は記者会見前日まで後追い調査も実施。その結果を11月18日、文部科学省で行われた記者会見で発表しました。
果たして、どのくらいの大学が入学金の負担軽減策を対応をとったのでしょうか?
都内120大学のうち、入学金の負担軽減策をとったのは4校
ローラー作戦で都内全私立大学の募集要項を調べたところ、120校のうち、入学金の負担軽減制度(返還・猶予・分割等)を募集要項に明記している大学は産業能率大学・大東文化大学・嘉悦大学・文化学園大学のわずか4校(約3%)でした。
この結果に対し、入学金調査プロジェクトの発起人・五十嵐悠真(いがらし・ゆうま)さんは「文科省の通知が出たとき、多くの大学が対応していただけるのではないかと期待しましたが、実際に対応しているのはわずか4校のみでした。対応の内容は大学によっても異なりますが、『10万円を除いて返金』など、中途半端です。4校ですとたった3%、四捨五入してしまえば0%です。入学金二重払いの問題は何ら解消されていません」と悔しがります。
同じくプロジェクト発起人の糸井明日香(いとい・あすか)さんも「募集要項を調べていると、『いかなる理由があっても入学金は返還しません』と、赤字・太字で書いている大学もあります。払えない受験生がいる一方で、入学金は大学の大きな収入源になるという、受験生の不安がビジネスになっているという状況は、いびつだと思います」と嘆きます。
入学金問題で人生を諦めることがあってはならない
11月18日の記者会見には「公益財団法人あすのば」代表理事・小川光治(おがわ・こうじ)さんも同席し、入学金調査プロジェクトと共同で行った入学金の二重払い問題当事者へのアンケートに寄せられた生の声を紹介しました。
●「入学するかどうかわからないのに先に支払いはおかしい。制度のせいで選択肢が狭まり、 限られた大学にしか行けなかった」(20歳・社会人)
●「第一希望の結果が後で、入学金の工面が間に合わない。2校分の入学金で莫大な負担に なり、最終的に受験を諦めました」(38歳・シングルマザー)
●「私立2校に入学金を払い、社会福祉協議会から借用。不要なお金を払わなければ、通学費用に回せた」(58歳・保護者)
●「複数の入学金は払えず1校に絞って受験するしかなかった。」(19歳・大学2年生)
●「合否より先に入学金の締切が来る学校は受験を諦めた。行きたい大学ではなく、行ける大学を選ばざるを得なかった」(匿名・受験経験者)
●「給付金や奨学金の支給時期が遅く、入学金の前払いに間に合わない。誰のための制度な のかと感じた」(5児の母・シングルマザー)
それらの声を受け、小川さんは次のように力説します。
「二重払い問題は、困窮世代の子どもたちにとっては、自分の人生を諦めなければいけないというような、極めて厳しい問題です。私は、以前は奨学金を支援してる『あしなが育英会』という団体に長くおり、そこでも大学進学を諦める子どもたちをたくさん見てきました。本当は違う大学に行きたい、もっと上のランクの大学に行きたいんだけど、入学金問題があるからランクを落とすしかない、という子どもたちも多くいました。
大学に行かなければ資格が取れなくて自分の人生の夢を叶えることができない職業もたくさんありますから、夢を諦める子どもたちが本当に少なくないのが現状です。これをこのまま放置するということは、もうあってはならないことだと思っています」
1校でも多くの大学が入学金二重払い問題に対応を!
6月に文部科学省から私立大学に「入学金」の通知が出され、新聞報道などでいくつかの大学が対応を講じたという報道を目にし、筆者には「これは入学金調査プロジェクトの活動の成果だ」と喜ぶ気持ちがありました。そこで4年ぶりに彼らの取材に乗り出したわけですが、彼ら自身はまったくそれらを成果だなどと捉えていませんでした。「まだ何も変わっていない」という現実を直視し、今後の道を模索しています。入学金調査プロジェクトの五十嵐さんは、記者会見の最後に言葉を重ねました。
「2021年の3月に入学金問題の解決を求める署名活動を始め、もう間もなく5年が経とうとしてます。この問題は毎年20万人が入学金二重払い問題の当事者になっていて、もう今年の春で100万人なんです。どれだけの人が夢を諦め、どれだけの人が払うのは厳しいと思いながら入学金を二重払いしてきたことか……。どうか1校でも多く、入学金負担軽減の制度を大学に入れていただきたいと思っています」

(取材・文/大友康子)







