英語環境にいる期間に本人と保護者が「やるべきこと」と「やらないほうがいいこと」を知る
言語能力を獲得しやすい思春期までの間に、英語圏で暮らす、または英語を公用語とする学校に身を置く。英語力を獲得したい人にとって、ノドから手が出るほど羨ましい状況かもしれません。
この状況を最大限に生かす方法を専門家に伺いました。
Try|英語4技能の習得に我が子が専念できるようにサポート
「英語圏の現地校やインターなどの英語環境にいることは、英語を学習するための最高の環境に我が子がいるということ。これを保護者が再認識して、お子さんが英語4技能の習得・伸張に専念できるようにサポートしましょう(※1)」(服部氏)。
とはいえ、母語(日本語)の習得や保持が気になる場合もあるかもしれない。「その場合は娯楽として楽しめるような日本語の本を与えて読ませるのはいいでしょう」(服部氏)。「日本語の本を読む際には、英語に訳すことはせず、日本語を日本語として理解するように促すのがいいと思います」(三石氏)。これを徹底することで“訳して考えるクセ”がつくのを防げるという(※2)。
※1…ただし、お子さんの日本語、あるいは英語が年齢相当レベルに達していないのなら、まずはどちらか一方を年齢相当レベルまで高めることを最優先に考える。
※2…詳しくはTyr not to|やらない「日本語にその都度訳しながら英語を学習する」
Try|行事、遊び、習い事で英語ネイティブのことの関わりを深く
「学校行事や課外活動に積極的に参加すること。そうしたことを通じて英語ネイティブの友だちを作り、楽しく遊ぶこと。保護者はこの2つのバックアップを」(服部氏)。
また、英語ネイティブの子どもが多く在籍する習い事への参加もおすすめ。「選ぶ際はお子さんの得意分野にするといいでしょう。習い事への適応が早くなり、仲間との関係も深まりやすくなります」(船津氏)。
Try|言語技術を育てる授業ランゲージアーツを頑張るよう促す
自分の考えを伝えるための言語技術を育てる、ランゲージアーツ。アメリカの現地校などでは一般的な国語の授業だが、これを履修して好成績を修めることを目標にするのもいいという。「ランゲージアーツでは小学生のうちから要約文を書いたり、皆で協力してレポートを書いたりと、密度の濃い学習ができます。英語ネイティブの先生から直にフィードバックをもらえるのも魅力」(三石氏)。
Try|英語の読解力は見落とされがち…様々な形で手助けする
英会話がスムーズにできるようになった子どもの保護者が見落としがちなのが、英語で読む力(読解力)。「英語力は読解力を身に付けてこそ、帰国後も失うことのない能力として定着します。ですから現地にいる間に、学齢相当の英語の本が読めるようになるよう手助けをしましょう。必要なら家庭教師など他者の手も借りてください」(船津氏)。
また、英語環境にいる間に我が子に合った英語の本を見つけることも保護者の大事な仕事だという。「お子さんのお気に入りの作家、シリーズ、キャラクターなどの本を見つけてあげることで、英語環境にいる間だけでなく、帰国後も、英語での読書習慣が続くはずです」(船津氏)。
Try not no|英語に自信がないので我が子が通う学校と関わらない
「ご自身の英語力に自信がないからと、子どもが通う現地の学校との関わりを拒否する、または控えめにする保護者は実は結構いらっしゃいます。ですが、それはお子さんから学校を好きになって英語力を得るチャンスを奪ってしまうようなものです」(服部氏)。
同様に、保護者が日本人としか付き合わないことも学校適応を遠ざけ、子どもの英語力の発達を遅らせる要因になりえるという。「学校や地域のイベントなどを通じて、ご自身が英語ネイティブの人たちとの交流を増やす努力を。子どもは親の姿を見て成長します。親が頑張って関われば、子どもも同じように関わる努力をするようになります」(船津氏)。
Try not no|英語に自信があるので家庭内での我が子の英語の先生になる
近年は保護者の英語力が非常に高く、家庭内で先生になって教えるケースも散見される。しかし「これは実は子どもの英語力習得にあまりプラスにはなりません。発音が日本語っぽくなったり、英語を日本語に訳して考えるクセがついたりしてしまうためです。英語の基礎は英語ネイティブから英語のみで教わるのが理想。英語を英語のまま理解できるのがバイリンガルです」(船津氏)。
Try not no|我が子の学校から出される宿題に完全にノータッチ
前述のように“家庭内での英語の先生”にはならなくていいが、宿題のフォローはしてあげたほうがいいという。方法は「その宿題で求められていることを子どもがきちんと理解できているかを確認してあげること、子どもの音読をひたすら聞いてあげることなど。こうした保護者のフォローによって、お子さんの英語学習に対するモチベーションも上がっていくはずです」(服部氏)。
Try not no|日本語にその都度訳しながら英語を学習する
「英語力の習得段階で極力しないほうがいいのは、日本語を混ぜて学ぶこと」と三石氏は話す。これには例えば「英語の文章内に分からない単語があったとき、日本語の辞書を引く」「英語で話すときに頭のなかで高速で日本語に翻訳をする」といったことが当てはまるという。
では、そうしたことをしないようにするにはどうすればいいか。「分からない英単語があったら、英和辞典ではなく、英英辞典を引かせます。また、英語環境にいる間にとにかくたくさん英語に触れさせ、音で覚えさせることが大事です。これでお子さんは、自然と、日本語を介さずに英語で考えたり話したりできるようになっていきます」(三石氏)。
Try not no|英語にまつわる教育方針を夫婦ですり合わせずに放置
我が子のバイリンガル教育に夫婦の一方が熱心、もう一方は無関心、というケースはよくあるという。「これをそのままにすると、いずれ、お子さんの学校選択などの際に衝突が起こります」(船津氏)。
今のうちからしておいたほうがいいのは、夫婦間でしっかりと話し合い、子どもにとってのベストなバイリンガル教育の方針を見つけておくことだそう。「お子さんにはどんな人間に育ってほしいか。それを実現するために保護者としてすべきことは何か。これを夫婦で共有しておくと、日々の対応が“ブレる”こともなくなります。そして、お子さんの保護者に対する信頼感も高まるはずです」(船津氏)。
お話を伺った方
英語塾キャタル代表
三石 郷史(みついし・さとし)氏
慶應義塾大学経済学部卒業後、メリルリンチ証券会社(当時)に入社。自身が英語の運用に苦労したことから「子どもたちが本物の英語力を身に付けられる場所を」と考え、2002年、4技能型英語塾®キャタルを創設した
TCL for Kids代表
船津 徹(ふなつ・とおる)氏
2001年、学習塾TLC for Kidsをホノルルに設立し、約20年間で延べ5000名以上のバイリンガルを育成。著書は『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)、『世界で活躍する子の英語力の育て方』(大和書房)など
言語学博士
服部 孝彦(はっとり・たかひこ)氏
大妻女子大学英語教育研究所所長・教授。早稲田大学講師。数多くの著書・講義・講演、検定の監修・面接、文科省が推進するグローバル人材育成関連のプロジェクトなどを通して、日本の英語教育、グローバル教育、帰国子女教育に貢献し続ける。
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